第4章 信長様の初めてのお菓子作り
『ふりもみこがし』
これが、俺が今から作ろうとしている菓子の名だ。
材料も少ない 手順も簡単
誰でもできる至極簡単な菓子ではないかと思う。
「信長様、何から始めたらよいですか?」
「ん、まずは、麦の粒と蕎麦の実をそれぞれ、石臼で挽く」
石臼の前へと移動すると、まずは麦の粒を挽いていく。
ゴリゴリと石臼の持ち手を回していると、麦の粒が少しずつきめ細やかな粉へと変化していく。
蕎麦の実も、同様にして挽いていくと、そば粉の出来上がりだ。
朱里は、石臼を挽く俺の手元をじっと見守りながら、興味深そうにしている。
「信長様…急にどうして、お菓子を作ろうと思われたんですか?」
「ん?あぁ……今日は政務もなく暇だったのでな。明日、家康が定期報告のために安土に来る。彼奴に菓子でも振る舞ってやろうかと思ったのだ」
「まぁ、家康のためにわざわざ!?」
「彼奴がどんな顔をするか……くっ…見ものだな」
石臼を回しながら、朱里と他愛ない話をしていると……こんな穏やかな日常が珍しくて、ひどく尊いもののように思えた。
挽き終わった麦と蕎麦の粉は、それぞれ別々に火にかけて、焦がさないように煎っていく。
今回は、麦と蕎麦と、二種類のふりもみこがしを作ろうと思っていた。
厨の中に香ばしい香りが漂い始め、焦がさないようにと、慎重に手を動かす。
煎り終わった粉は、冷ました後で、蜂蜜か砂糖を加えて混ぜる。
水も少し加えながら、固さを調節していき、好きな型に形を整えて…………出来上がりだ。
「わぁ、香ばしくて良い香りがしますね!」
「あぁ……簡単にできたな。 味見、してみるか?」
「はいっ!」
出来立ての『ふりもみこがし』……そば粉で作ったものを、一つ摘んで朱里に渡してやると、自分も一つ取って食してみる。
口に入れた瞬間、ほのかにそば粉の香りがして、噛むと蜂蜜の風味と甘みが口の中に広がりながら、ほろほろと溶けてゆく。
口当たりは、落雁のように柔らかく優しいもので、上品な甘さが癖になる。
(あぁ…これは抹茶に合いそうな……)
「んー、泡雪みたいに口の中で溶けちゃいますね。上品な甘さで…抹茶にすごく合いそうっ!」
「っ…くくっ…」
「………あれ?信長様、どうかしました?」
「っ…いや、何でもない…」
(同時に同じことを考えるとはな……)