第31章 武将達の秘め事⑥
「光秀、お前の単独行動は今に始まったことじゃないが、御館様への報告だけは怠るな。今回も数日間に渡り、音信不通だったそうじゃないか!」
政宗とのやり取りを黙って聞いていた秀吉だったが、苦々しげに顔を顰め苦言を呈する。
「大体なぁ、お前はもっと御館様への忠義を示さねばならん。そんな風にふらふらしてるから、いつまで経ってもおかしな誤解をされるんだぞ!」
「はて、おかしな誤解とは何のことやらな…このような宴の場で無粋な話はよせ、秀吉」
「なっ…無粋とは何だ、無粋とは!お前が態度を改めれば済む話だ!」
信長への忠義心が人一倍強い秀吉は、光秀の飄々とした態度が歯痒くて仕方がないらしく口を開けば光秀への叱言が絶えない。
秀吉と光秀のこのような言い合いは安土ではお決まりの見慣れた光景だった。
「そのぐらいにしておけ、秀吉。貴様、叱言で一年を終えるつもりか?」
「はっ…これは…お見苦しいところを…失礼致しました、御館様っ!」
延々と続くかと思われた秀吉の叱言を鶴の一声でピシャリと止めたのは、上座でゆったりと盃を傾ける主君、信長であった。
毎月恒例の武将達の飲み会に、主(あるじ)である信長は基本的には参加しないが、今宵は年忘れの会ということで信長も交えて酒を酌み交わしていた。
「秀吉、貴様、この俺が光秀の行動一つ把握出来ておらぬ愚鈍な主だと思うのか?」
「め、滅相もないっ!そ、そのようなことは断じて…」
「ならば貴様が案ずる必要はない。それに今宵は無礼講だ。堅苦しい話は抜きに致せ。皆、思うままに楽しむがよい」
「ははっ!」
「さすがは御館様。些末なことには拘らず大局を見る広い目をお持ちだ。我ら家臣も見習わねば…なぁ、秀吉?」
「くっ…光秀、お前って奴は…」
涼しげな微笑を浮かべる光秀を苦々しげに顔を顰めてじっとりと睨む秀吉だったが、信長の言うことも尤もであり、一年の締めくくりである年忘れの会で叱言ばかり吐くのも大人げないのではという気もしていた。
(とはいえ、俺が叱言ばかり吐くのも元はといえばお前のせいだからな、光秀!来年こそは必ずお前のその捻くれた性質を治してやる!)
密かに決意を新たにする秀吉なのであった。