第31章 武将達の秘め事⑥
師走
暮れも押し迫ったある夜のこと
「お前ら、どんどん食えよー。ほら、追加の料理もできたぞ」
温かな湯気が立ち上がる美味しそうな料理が乗った大皿を両手に持った政宗は広間に集う武将達に甲斐甲斐しく声を掛ける。
ここ安土城下の伊達屋敷では、武将達が集まっての年忘れの会が開かれていた。
「おい、光秀!皿の中身を勝手に混ぜるな。せっかくの彩りが台無しじゃねぇか…って、おい、家康、お前もだぞ?あーあ、煮物が唐辛子で真っ赤じゃねぇか!ったく、よくそんなもん食えるな」
「余計なお世話です、政宗さん」
「余計な世話だ、政宗」
いつものように政宗の小言をあっさり聞き流す二人に呆れつつも、政宗はさり気なく周りを見渡し、酒や料理が足りているかの確認を怠らない。
「政宗、いつも悪いな。お前もこっちで一緒に食えよ」
秀吉は自分の隣の席を指し示して政宗に呼びかける。
いつの間にか恒例となった武将達のこの集まりは、互いに気の置けない者同士、自由に呑み食いし、思い思いに語り合う、気を使わない会となっているが、料理自慢の政宗は手料理を振る舞い、秀吉も顔負けであれやこれやと皆の世話を焼いているのだった。
「政宗、ほら俺が注いでやろう。まあ飲め」
光秀が口元に妖艶な微笑を浮かべて徳利を持ち上げる。
「おっ、悪いな、光秀…って、誰が飲むか!その手には乗らねぇぞ」
「おや、残念。俺の酌は受けてくれないのか?」
光秀がわざとらしく徳利を揺らすと、中でちゃぷちゃぷっと酒が揺れる音がする。
武将達は皆、酒は強い方だが、政宗だけは例外で下戸の彼は宴では専ら酒ではなく茶を飲んでいるのだが、光秀はいつも隙あらば政宗に酒を飲ませようとするので油断がならないのだ。
「お前の酌だけは絶対に受けねぇ。ったく、久しぶりに顔を見たが変わらねぇな、お前は。今回はどこに行ってた?」
光秀は他国への潜入、諜報活動など、公にはできぬ秘密裏の任務で安土を空けることが多く、行き先や任務の内容などの詳細は親しい者にも明かすことはなかった。
「さて、どこだと思う?」
政宗の問いかけに、光秀は口の端に意味深な笑みを浮かべて嘯く。