第4章 信長様の初めてのお菓子作り
「………信長様?」
つらつらと考え事をしていたところに、呼びかけられて、ハッと我に返ると………
厨の入り口で、ひょっこり顔を覗かせている朱里がいた。
「っ…朱里っ…」
柔らかな笑顔とともに厨の中へと入ってきた朱里は、キョロキョロと辺りを見回しながら、傍へとやって来る。
「よくここが分かったな。結華はどうした?」
「結華はお昼寝の時間なんですよ。千鶴が傍についてくれています。
炊事係の女中さんに、信長様が厨にいらっしゃると聞いて……来ちゃいました!……お菓子を作られるって本当ですか??」
(彼奴ら、ペラペラと喋りおって……)
「……今日は政務もなく暇があったのでな…これを作ってみようと思う」
菓子の本を開いて見せてやると、興味津々といった感じで身を乗り出して覗き込んでくる。
「『ふりもみこがし』……ですか? 美味しそうですねっ!
信長様、お菓子作りは、されたことあるんですか?」
「………いや、初めてだ」
「!?そうなんですか!?
ふふっ…では、私も一緒にお手伝いしてもいいですか?」
「………一緒にやりたいのか?」
「はいっ!」
「っ……貴様が、それほどに言うのならば……許す」
「わぁ、ありがとうございますっ!」
ぱぁっと花の蕾が綻ぶような笑顔を見せる姿が愛らしい。
二人して他愛ない話をしながら待っていると、料理番の男が慌てた様子で戻ってきた。
手にした盆の上には、いくつかの材料が乗せられている。
「御館様っ、お待たせを致しました。……こちらが先程の菓子の材料でございます。どうぞ」
差し出された盆の上には……
『麦の粒』『蕎麦の実」「蜂蜜』『砂糖』『水』
それだけである。
「では…始めるとしようか……」