第30章 愛の証し
昨夜は、遠方の領地で起きた一揆の鎮圧のため出陣されていた信長様が帰城され、久しぶりにお会いできたのだ。
お怪我もなく無事のお姿を確認できて、抑えていた感情が溢れてしまい、いつもよりも強く信長様を求めてしまった自覚はある。
信長様の方も戦帰りで気が昂っておられたのだろうか、いつも以上に激しく濃密に求められたような気がする。
(思い出せないぐらい何度も…まだ身体の奥が熱い)
途中から意識を飛ばし記憶がない私だが、目覚めた時には不思議と夜着をきちんと身に纏っていた。私が眠った後に信長様が整えて下さったのだとは思うが、こうして朝も私より先に目覚めておられた様子からして、さても信長様はいつ休まれたのだろうかと少し心配になった。
「あの…私、昨夜のことは記憶が曖昧で…先に眠ってしまったみたいで…すみません。信長様もきちんとお休みになりましたか?」
「ん?ああ…俺は少し休めば事足りる。貴様が案じることはない」
「ええっ…でも…此度は長陣で疲れていらっしゃるでしょう?今日ぐらいはゆっくりされては?」
褥から完全に起き出して身支度を始めようとする信長様に対して、私も慌てて身体を起こして声をかけるが…
「ゔっ…」
急に起き上がったせいか、眩暈を感じて頭がクラクラとしてしまいこめかみを押さえた。
「おい、大丈夫か?貴様のほうこそゆっくり休んでおれ。まだ起きずともよい。朝餉もこちらに運ばせる。俺は軍議があるゆえ先に行くが、貴様は緩々と支度すればよい」
優しくそう言うと、身を屈めて目蓋の上に口付けをしてくれる。
甘やかな心遣いにキュンと胸の内が高鳴って、途端に離れ難い気持ちが強くなった。
戦から帰られたばかりとはいえ、日々お忙しい信長様はゆっくり休息を取る暇もない。今朝も早くから軍議、戦の事後処理、不在の間の政務の決裁、とやるべきことは山積みなのだろう。
もう少しお傍にいたい、離れたくない…そう願いはしてもその思いを安易に口にすることは女の我が儘のように思われて憚られた。
結局、テキパキと身支度を整える信長様を手伝うことも叶わず、成す術もなく見守ることしかできなかった。