第29章 第六天魔王に愛を捧ぐ
「はぁ…何ですか、あれ?信長様、絶対面白がってますよね?」
上座で繰り広げられている織田主従のやり取りを少し離れた席から生温い目で見ていた家康は、目の前の料理に無心に唐辛子の粉をかけながら呆れ顔で言う。
「光秀もな。あいつ、やっぱり…って、お〜い、家康。それ、もう味、分かんねぇだろ?ったく、せっかくの料理が…」
「俺にはこれぐらいが丁度いいんです。それより政宗さん、やっぱりって…?」
「ん?ああ、それは…」
政宗と家康が信長達の方を見ながらひそひそと話していたその時、家臣達から信長への祝いの品が披露され始めたのだった。
信長への祝いの品、政宗からは贅を尽くした宴の料理を、家康からは滋養強壮作用のある薬草を煎じたものを、三成からは異国の新しい武器の見本書を、光秀からは南蛮渡りの茶器を…
それぞれが趣向を凝らした品を献上し、信長もまたそれらを受け取って満足げな笑みを浮かべていた。
「さて、次は秀吉の番だな」
光秀が向ける思わせぶりな視線を受けて、秀吉は心の中でぐっと気合いを入れていた。
(よし、今こそ御館様への忠義を示す時だ。この思い、誰にも負けるつもりはない)
「御館様、俺からはこれを。どうぞお納め下さい」
信長は秀吉が恭しく差し出した壺を受け取り、躊躇うことなく蓋を開けた。
平伏したままの秀吉からは信長の表情は窺えなかったが、ほぅっ…と微かな驚きの色を含んだ感嘆混じりの声が聞こえた。
「これはこれは…お前が壺いっぱいの金平糖を御館様に贈るとは、どういった風の吹き回しだ?秀吉」
光秀が壺の中をチラリと覗きながら揶揄するような口調で言う。
「秀吉さん、すごい。こんなに沢山集めるの、大変だったんじゃない? ね、信長様、すごいですよね?」
信長の傍に寄り添うように座っていた朱里は、キラキラと目を輝かせて色とりどりの金平糖を見つめながら興奮気味に信長に話しかけている。
「御館様のためなら、これぐらいどうということはないさ。この秀吉、御館様への忠義は勿論この壺の重さ以上と心得ております!」
「大義であったな、秀吉。貴様の忠義、よう分かった」
「はっ、ありがたき幸せ」
信長からの労いの言葉に感無量で目を潤ませる秀吉を見て、周りの武将達も微笑ましい気持ちになるのだった。