第29章 第六天魔王に愛を捧ぐ
「なるほど…その解釈なら合点がいくな。壺の重さがお前の忠義の重さに等しくなるってわけだ」
「壺いっぱいの金平糖か…信長様が喜びそうな贈り物ですね。でも大丈夫ですか、秀吉さん?この壺、まあまあ大きいですけど…これをいっぱいにする量の金平糖なんて今から安土城下を探して手に入りますか?信長様の誕生日は明日ですよ。さすがに無理じゃないですか?」
「御館様への忠義が試されてるとなったら、無理でも何でもやるしかねぇだろ。誰の仕業か分からねぇが、この挑戦、受けて立つ!」
「いいぞ、秀吉!それでこそ信長様の右腕だ」
「おう!任せとけ!」
完全にその気になった秀吉は壺を片手に勢いよく立ち上がると、その場で声高らかに宣言した。
そんな秀吉を、政宗は面白そうに囃し立て、家康は呆れ顔で冷めた視線を送り、三成は心から心配そうに見つめていたのだった。
========================
「店主、金平糖をくれ。この壺に入るだけ全部だ」
「これは秀吉様。こ、これに入るだけでございますか!?少々お待ちを…」
政宗達と別れた後、三成に後の仕事を任せた秀吉は早速に城下の菓子屋へと足を運んでいた。
ここ安土の城下は天下人たる信長のお膝元として、京や堺にも劣らぬ賑わいを見せていた。数多の店が軒を連ね、珍しい異国の品もひっきりなしに入ってきていた。信長の進める楽市楽座の取り組みは人や物の自由な往来を可能にし、今では日ノ本各地の様々な品が容易に手に入るようになっていた。
安土城下には菓子屋も数軒あり、どの店でも高価で珍しい南蛮菓子が当たり前のように店先に並んでいた。
「お待たせ致しました、秀吉様。ただ今私どもでご用意出来る金平糖はこれだけでございます。こちらの壺いっぱいというのは到底無理で…申し訳ございません」
店主は店の奥から金平糖をお盆に山盛り乗せて持ってくると、申し訳なさそうに頭を下げた。
盆に山盛りとはいえ、壺に入れるとそれは到底いっぱいになる量ではなかったのだ。
「そうか…すまない。あるだけ貰おう。急に無理を言って悪かったな」
「いえいえ、そんな…信長様へ贈られるので?明日はお誕生日ですな。町の者も皆、心から喜んでおりますよ!これはささやかですが私から信長様に…新作の菓子でございます」
そう言うと、店主は静々と菓子折りを差し出してくるのだった。