第29章 第六天魔王に愛を捧ぐ
「へぇ、魔王に捧ぐ一粒の金平糖か…随分と洒落の効いた贈り物だな」
「感心してる場合じゃないと思いますけど…そんな贈り主も知れない怪しいもの、信長様に渡せるわけないですよね、秀吉さん」
「そうなんだよ。誰がこんなふざけたものを持ち込んだのか…その訳も皆目分からねぇしな」
う〜ん、と困り顔で腕組みをする秀吉の横から件の文をひらりと取り上げた政宗は、そこに書かれた文字を見て愉快そうに片眉を上げる。
「ここに書かれてる『魔王の右腕』ってのは秀吉、お前のことだろ?お前の忠義が試されてるんじゃねえのか?」
「要するにこれは…何者かによる秀吉さんへの挑戦状ってことですか?」
「な、何だと?」
(御館様への祝いだと思っていたら、俺への挑戦状だったとは…益々訳が分からねぇ)
「秀吉様への挑戦状ですか?一体誰がそんなことを…」
「さぁ、それはこれだけじゃ分からねぇな」
「御館様への忠義なら誰にも負けん!俺の御館様への思いは海よりも深く、山よりも高く、天よりも…」
「はいはい、分かってるって」
鼻息荒く朗々と宣言する秀吉を、政宗は半ば呆れながら生温い目で見遣る。隣に座って事の成り行きを見守っていた家康も同様の気持ちだったらしく、わざとらしく溜め息を吐いていた。
「お前が信長様第一の男だってことは安土中が知ってるが…お前のその重たいぐらいの忠義のほどを形にして示してみろ、ってことだろ、これは」
ヒラヒラと文を秀吉の目の前で振りながら、政宗は揶揄い混じりに言ってのける。
「忠義を形にするって…」
(御館様のためならばこの命投げ打っても惜しくはないが…そういうんじゃないんだよな、たぶん。くそっ、俺にどうしろって言うんだっ)
「秀吉様、あの…」
訳が分からず悶々とする秀吉を傍らで心配そうに見守っていた三成だったが、ふいに何事か思い付いたかのように声を上げた。
「ん?どうした、三成?」
「これは私の推測なのですが、この文には『忠義の重さを示さん』とあります。例えばこの壺を金平糖でいっぱいにして、その重さで信長様への忠義を示す。そういう意味ではないでしょうか?」
「壺を金平糖でいっぱいにする…?」
三成の言葉を半信半疑で繰り返した瞬間、壺いっぱいに入れられた色とりどりの金平糖を手にして満足そうに笑う信長の姿が頭の中に思い浮かんだ。