第29章 第六天魔王に愛を捧ぐ
慌てて壺の中を覗いてみると……
「………金平糖?」
壺の底には白い小さな金平糖が一粒ちょこんと入っていた。
「何で金平糖が…」
金平糖は南蛮渡りの高価な甘味で信長の好物であった。南蛮人の宣教師から初めて献上されて口にして以来、その上品な甘さと美味しさの虜となり、金平糖は今や信長にとって日々欠かせぬものとなっていた。
時に甘味の取り過ぎを懸念した秀吉が金平糖を取り上げて信長の不興を買っているのも、ここ安土の城ではありふれた日常の一風景となっていた。
珍しき異国の品に興味が深い信長への献上品として南蛮渡りの品が送られてくることは多い。だが、壺の中に金平糖を一粒だけとは何とも不可解であった。
「これが『煌めく星のかけら』でしょうか?信長様への献上品に金平糖をというのはさほど珍しいことではありませんが、これは一体何を意図しているのでしょう?」
秀吉の手のひらの上の金平糖を覗き込み、手にした文と見比べながら三成は不思議そうに言う。
なるほど三成の言うとおり、文に書かれている『星のかけら』は金平糖の形状を思わせる。
そうなるとやはりこの唐物の壺と金平糖一粒が信長への献上品ということになるのだろうか。いや、それはあまりにもふざけ過ぎているような気もする。
「おっ、お前ら、そんなとこで顔突き合わせて…何してんだ?」
秀吉と三成が難しい顔をして庭で壺を睨んでいるところ、庭に面した廊下を通りがかったのは政宗と家康の二人だった。
宴の食材であろうか、政宗の手にしていた籠にはいくつもの種類の野菜が溢れんばかりに入っている。
「二人ともこんな所で油売ってていいんですか?家臣達が探してましたよ」
呆れたように言いながら、家康は冷ややかな視線を送る。
信長の誕生日を明日に控えた今、城中がその準備に追われている中で諸々の準備を取り仕切る立場にある秀吉達が何をしているのかと訝しい思いであった。
「いや、それがなぁ…」
家康の冷たい視線を受けて気まずい思いに駆られながらも、この不可思議な献上品を捨て置くわけにもいかず、秀吉は事の次第を二人に話すことにしたのだった。