第29章 第六天魔王に愛を捧ぐ
二人は箱を中庭に持っていき、一旦その場に下ろして改めてぐるりと全体を見回してみた。
箱は表面に熨斗紙も付いていないただの桐箱だった。それなりの重さもあり、試しに振ってみるとゴトゴトっと中で何かが動く音がして、秀吉は思わず手を引っ込めた。
「秀吉様?」
「お、おう…」
(一体何だよ…やっぱり何かヤバイもんなのか…??)
「秀吉様、ここは私が…」
若干及び腰な秀吉に気を遣ったのだろう、三成は自ら蓋を開けんと箱に手を伸ばす。
「待て待て三成、ここは俺が開けるからお前は下がってなさい!」
慌てて三成を制止した秀吉は、その手を遮るようにして箱を勢いよく自分の手元に引き寄せる。
三成に情けない姿を見せるわけにはいかないと意を決して箱の蓋に手を掛けた秀吉は、えいっとばかりに勢いよく蓋を開けたのだが…
「つっ!これは…」
箱の中には唐物の壺が一つポツンっと入っていて、その上に一枚の紙が乗っていた。
「壺…と、何だこれ?」
不審そうに眉を寄せて箱の中を覗き込みながら、秀吉はその紙をそろりと取り上げた。
「何か書いてあるな。ん?何だ?」
どうやら文字が書かれているようだ。献上品の添え状かと思った秀吉は内容を確認しようと、その紙を覗き込んだのだった。
『第六天魔王の生誕を祝い、煌めく星のかけらを捧ぐ。魔王の右腕はその忠義の重さを示さん』
紙の真ん中にはそれだけ書かれてあった。
「……何だこれは?どういう意味だ?」
天下人の誕生日を祝うにしては随分と不遜極まりない文章だ。
当然ながら差出人の名はなく、暗号のような文の内容は益々謎を深めるばかりだった。
秀吉は文を裏返したり、ひっくり返したりとひとしきり眺めた後で次に中に入っていた壺へと手を伸ばした。
唐物の赤絵の壺は花鳥画が施されており、ひと目で高価な品だと見てとれたので、秀吉は慎重に壺を取り出したのだが……
ーカランッ…コロンッ…
壺を持ち上げた拍子に予期せずカランっと乾いた音が響いて、ドキッと心の臓が嫌な感じに跳ねた。壺を持つ手も頼りなく揺れ、内心ヒヤリとする。
「っ……」
(持った感じ軽かったから空っぽだと思ったんだが、中に何か入ってるのか…?)