第28章 ちぇんじ〜俺が貴様で貴様が俺で
「何故、目を逸らす?貴様、やはり…」
グッと顔が近付けられて、全てを暴くような視線が間近で見つめてくる。不思議なことに、目の前にあるのは自分の顔なのに信長の眸に囚われているような緊張感を覚える。
「ち、近いですよ、信長様。大丈夫ですよ、皆には気付かれてませんから。信長様の方こそ、大丈夫でした?女性ばかりに囲まれて…大変だったのでは?」
何事にも完璧な信長であるから薙刀の指南も難なくこなしただろうとは思うが、女ばかりの中で上手く振る舞えただろうかと少し心配ではあった。
「ふっ…俺を誰だと思っている?貴様に成り代わることなど造作もない。何一つ疑われることもなかったわ。普段は聞けぬ女子らの内緒話も聞けた。くくっ…なかなか興味深かったぞ」
「ええっ!?な、内緒話って…い、一体何の話を…?」
(女同士だとお互い気を許して際どい話…それこそ夜の艶話なんかもしちゃったりするんだけど…まさか信長様にそんな話を…?)
ニヤリと不敵に笑う信長を見て、さぁーっと血の気が引く思いがした。
薙刀教室の仲間達とは、閨の悩みなど殿方には到底聞かせられないような話題なども赤裸々に打ち明け合ったりしている。若い女子が集まれば話題に上るのは必然的に殿方のことになり、女同士の気安さから際どい話や下世話な噂話も遠慮なく繰り広げられているのが実情であったのだ。
そんな話を信長に聞かれてしまったのかと思うと、何とも気まずく居た堪れない。
「あの…皆と何のお話をなさったのですか?」
「んー?さてさて、何の話であったか…」
恐る恐る話の内容を聞き出そうとする私に対して、信長様は何処吹く風といった調子で核心をはぐらかそうとする。その表情は愉しげに綻んでおり、意味ありげな微笑に私の心はグラグラと揺らいでしまう。
(うーっ、気になるっ。一体どんな話を?アレとかコレとか…あぁっ、アレの話だったら…もう恥ずかしくてダメっ…)
「貴様、一体どんな想像をしている?そんなに顔を赤らめるなど…余程いやらしいことを考えて…っ、くくっ…」
頭の中で様々な妄想が広がっていき、そわそわと落ち着きがなくなった私を見て信長様は可笑しそうに笑う。
「ち、違います、そんな…赤くなんて…もぅ、変なこと言わないで下さい!」
慌てて両手で押さえた頬は少し熱かった。
