第28章 ちぇんじ〜俺が貴様で貴様が俺で
(甘過ぎず、実に上品な小豆の味がする。なかなかに美味い。どこの店の団子か、後で聞いて帰るとしよう)
信長は女子達の視線を気にすることなく団子をペロリと完食し、続いて茶を啜る。少し濃いめに淹れられた茶の渋みが団子の甘さに相まって、これまた何とも良い。思いがけず参加することになった茶の時間だが、予想以上に信長を満足させていた。
「そういえば朱里様、私、縁組が決まりましたの。こうして薙刀の稽古に通わせていただくのもあと僅かかもしれません」
一人の女子が突然改まって言い出すと、周りは一気に華やいだお祝いの雰囲気になった。
「まぁ、おめでとうございます!祝言はいつ?」
「お相手は?どんな方?」
「もう顔合わせはなさいましたの?」
女達は口々に祝いの言葉を述べながら興味津々といった様子で次々に質問し始める。
女同士というのは何とも賑やかなことだなと些か呆れつつ、信長は茶を啜りながらチラリと話題の中心の娘の顔を見る。
さぞや幸せに満ち溢れた顔をしているのだろうという信長の予想は意外にも外れた。
娘は友人達に囲まれて次々と祝福の言葉を浴びながらも、その表情は翳りを帯びていたのだ。
(縁組が決まったのなら幸せの絶頂にあるはずだが…何か心配事でもあるのか?立ち入ったことを聞くべきではないのだろうが、然りとてこのまま見て見ぬふりもできぬな。何せこの娘の縁組は確か…)
「この縁組は信長様からのお声掛けによるものなのですが…相手の方のこともよく知らないし、不安で…」
娘は伏目がちになり、表情は益々曇っていく。
(なるほど、家同士で決まった縁組ゆえ、相手を知らぬまま嫁ぐのが不安だということか。戦乱の世では武家の者ならばそのような縁組は当たり前ではあるが…下々の者ならいざ知らず、好き合った者同士が夫婦になることの方が珍しいのだ)
「朱里様が羨ましいですわ。信長様と想いが通じ合って恋仲になられて、とてもお幸せそうですもの。お二人は遠からず夫婦になられるのでしょう?互いに好き合って一緒になれるなんて憧れてしまいますわ」
「っ……」
うっとりと憧れの眼差しで見つめられてしまい、信長は思わず返す言葉に詰まる。