第28章 ちぇんじ〜俺が貴様で貴様が俺で
「秀吉、貴様、俺のものを取り上げるとは許されん所業だな」
「なっ…御館様っ!全ては御館様の御為にございます!」
(ご、ごめんね、秀吉さん。許して…)
表面上は信長様らしく難しい顔をして不敵に言い放ちながら、心の中では密かに秀吉さんに謝る。秀吉さんを責めるのは本意ではなかったが、信長様らしく振る舞うためには仕方がなかった。
「御館様に物申すとは不敬だな、秀吉」
「おっ、謀叛か?下剋上か?やるな、秀吉」
「秀吉さんがそんな無謀な人だとは思いませんでした。やるなら一人でお願いします。くれぐれも俺を巻き込まないで下さいね」
「お待ち下さい、皆様。秀吉様が謀叛など、何かの間違いです!秀吉様は信長様のお身体を第一に思われて…」
「はいはい、三成、お前はちょっと黙ってろ。ややこしいから」
「いいえ、家康様。秀吉様のためにここは言わせて頂きます。秀吉様の信長様への忠義は海よりも深く山よりも高く…」
「はぁ…面倒臭い」
わぁわぁと賑やかに言い合い始めた武将達について行けずに内心ヒヤヒヤしながらも、信長様らしく上座で鷹揚に構えて話を聞いている風を装ってみる。
(秀吉さんにはとんだとばっちりを喰らわせちゃったけど、取り敢えず話の矛先が外れて皆から怪しまれなくなったのはよかった。元に戻ったら、秀吉さんには真っ先に謝ろう…)
よもや『信長様』の中身が私だなどと思いも寄らないであろう秀吉さんは、武将達から口々に揶揄われてしどろもどろになっている。
そんな秀吉さんを申し訳なく思いながらも、私は一刻も早くこの場を丸く収めて退散することだけを考えていたのだった。