第27章 武将達の秘め事⑤
「何だ、つまんねぇな。他に面白い話がある奴はいないのか?」
「面白いって…人の閨の話を根掘り葉掘り聞くなんて、悪趣味ですよ、政宗さん」
聞かれたって俺は絶対に言うものかと固く心に秘めながら、家康は政宗に冷ややかな視線を送る。
そうは言っても、いつもいつも流されて恥ずかしい性癖やらなんやら答えさせられる羽目になるのだが、それは決して家康の本意ではなかった。
(今宵は強引俺様の信長様もいないし、そう簡単には流されないぞ、俺は)
子供の頃からの付き合いの信長は兄のような父のような存在で、家康は内心認めたくはないが信長に対してだけはいまだに何となく頭が上がらないのだった。
そして大抵こういう酒の席では、強引な信長に押し切られ散々飲まされた挙げ句、恥ずかしい話をさせられるのがお決まりの流れだった。
「酒の席だ、こういう話の方が盛り上がるだろ?」
「自分は飲んでないのに、よく言う…」
「艶話ならば、こういうのは如何でしょう?こちら、城下の書物屋で今日たまたま見つけたものなのですが…」
それまであまり口を挟まず皆の話を大人しく聞いていた三成が、徐ろに自らの傍らに置いていた風呂敷包みを開いて一冊の書物を取り出した。
それは……
「『黄素妙論(こうそみょうろん)』?」
三成の手元を皆が一斉に覗き込む。表書を見ただけでは一見して何の本だか分からず、皆が怪訝そうな顔になっていた。
「三成、それ、何の書物だ?戦術書…じゃなさそうだな」
三成は自他ともに認める読書家で、軍師として国内外の戦術書に精通しているのは無論のこと、芸術から娯楽までその興味は多岐に渡っており、常日頃よりあらゆる部類の書物を読んでいた。
「これは曲直瀬道三先生がお書きになった夜の指南書だそうです」
「夜の…指南書?」
「はい、男女の夜の営みについて書かれた本だそうです。曲直瀬先生は大変腕が良いと京で評判のお医者様ですから、皆様もご存知かと思います。この本は今日買い求めたばかりで私もまだ軽く目を通しただけなのですが、具体的な図解などもあり…非常に興味深いです!」
「………………」
新しい戦術を思いついた時のようなキラキラした瞳で興奮気味に言う三成にどう突っ込んでいいものなのか、武将達は皆一様に何とも言えない微妙な表情を浮かべている。