第27章 武将達の秘め事⑤
「お前ら、不毛な言い合いはその辺りにして飯を食え。せっかくの料理が冷めちまうだろ。ったく、作り甲斐のねぇ奴らだぜ。
あーぁ、この場に朱里がいたらなぁ。あいつ、何でも美味そうに食ってくれるからなぁ…ほんと素直で可愛い奴だよな」
「こら、政宗。朱里は御館様の想い人だ。変な目で見るなよ」
「くくっ…相変わらず堅苦しいな、お前は。変な目で…とはどういう意味だ?皆が小娘を憎からず思っているのは事実だろう?秀吉、お前とて例外ではあるまい」
「なっ…俺はそんなんじゃねぇ。朱里は妹みたいなもんだ」
「なるほど、妹ならば思う存分構い倒せるからな、過保護な兄上殿は」
「光秀っ、てめぇ…」
「秀吉、図星だからって大人げないぞ。まぁ、何となく世話を焼きたくなるのは俺も同じだがな。けど、まぁ、この場に朱里はいなくてよかったかもな…酒の席での話は女子には到底聞かせられない際どいものばかりだしなぁ」
「政宗さんは酔ってなくても際どいですけどね」
黙々と食事を進めていた家康は、言い合う政宗達を見て皮肉っぽく言う。
「お褒めに預かり恐悦至極」
「……褒めてません。ていうか、そもそも朱里は今宵は信長様のところでしょ…いや、今宵も、か…?」
信長は今宵の武将達の集まりには不参加だ。今頃は天主で一人、月見酒でも楽しんでいるかもしれない。当然傍らには朱里がいるはずだと誰もが容易に想像できた。
このところ信長は毎晩のように朱里を傍に召しているようで、その寵愛ぶりは城内でも噂になるほどだったのだ。
「夜も日も明けぬご寵愛ぶりだな。秀吉、どうなんだ?お前、毎朝お迎えに行くんだろ?」
「……どう、って何がだ?」
「朝の二人の様子だよ。あの信長様が女とイチャイチャしてるとこなんて、想像つかねぇな」
「イチャイチャ……」
揶揄うような政宗の口ぶりに、秀吉は何事か思い出したかのように顔をサッと赤らめる。
何とも言えない複雑な表情で口籠る秀吉を、当然見逃す武将達ではなかった。
「何だよ、何か見たのか?」
「な、何かって何をだ!?俺は何も聞いてない!」
「聞く?聞くって何だよ?あぁ…あれか?朱里のあの時の声…とか…」
「うわぁ!止めろ、政宗!それ以上言うんじゃねぇ!」
慌てふためく秀吉は政宗を制止しようと必死だ。