第27章 武将達の秘め事⑤
「そう言えば家康、この間の縁談、あれ、どうなった?」
「は?急に何ですか、政宗さん」
(はぁ…面倒。何で人のそんな話、覚えてるんだよ…)
「相手は京の公家の姫だったよな?会ったのか?」
興味津々といった風にニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる政宗に、家康は心底嫌そうに顔を背けた。
「……会ってません。会うわけないでしょ。そんなのすぐ断りましたよ」
先日、信長を通じて打診された京の公家の姫との縁談を家康は詳しく話を聞くこともなく断っていた。
自分には嫁取りなんてまだまだ先の話だと思っていたし、ましてや公家の姫なんて気位ばかり高くて面倒臭いだけだと、端から拒否反応が強かったからだ。
(どうせ嫁にするなら、誰にでも優しくて気の置けない子がいい。姫なのに偉ぶったところが全然なくて気さくで可愛くて……)
家康はぼんやりと考えながら、いつの間にか無意識に頭の中に一人の女の顔を思い浮かべていた。
(っ…何で俺、あの子のことなんて考えてるんだ…あの子はあの人の…)
家康が無意識に思い浮かべた女……朱里は先頃織田家と同盟を結んだ小田原の北条家の姫であり、信長と最近恋仲になったばかりなのだった。
同盟締結のため小田原へ赴いた信長が強引に連れ帰った姫。
最初は皆、彼女は人質なのだと認識していたのだが、いつの間にか信長の寵を受ける存在になっていた。
朱里は、信長が一目で気に入ったのが頷けるほどの見目麗しい姫だったが、見た目のお淑やかな印象とは違い、意外にも大名家の姫らしくなく活発で気取ったところの全くない親しみやすい性格の娘だった。
安土に来たばかりの頃は自分の居場所を見つけられず戸惑っていたようだったが、持ち前の天真爛漫な性格はすぐに城の者達にも受け入れられ、武将達からも可愛がられていた。
面倒事を厭い他人にあまり興味を持たない家康でさえ、朱里は何となく気になる存在なのだった。
(別に深い理由なんてないし。あの子が信長様の想い人だから気になるだけだ。あの信長様が一人の女を寵愛し、傍に置く日が来るなんて…俺にはいまだに信じられない)