第3章 はじめてのおつかい
「ふっ…やるな、あの店主、後で褒美をやらねばな」
「はは…よかったですね、無事に買えて…」
菓子屋の店主の機転に心から感謝しつつ、店から軽やかな足取りで出てくる結華を、そっと建物の陰から見守る。
(はぁ…無事におつかいできてよかった…あとはこのままお城へ帰るだけ…………………って、あの子、どこ行くの??)
店から出た結華は、周囲をキョロキョロっと見回して、なんと城と正反対の方へと歩いていくのだ…しかも、全く迷いのない足取りで。
「朱里っ、結華のやつ、城と反対方向に歩いて行くぞ」
「は、はい…どうしよう…」
「止めねば、このまま行くと城下外へ出てしまうぞ」
言いながら、もう駆け出そうとする信長様を慌てて引き止める。
「ダメですよっ、私達が行ったらバレちゃうじゃないですか。折角ここまで上手くいったのに…」
「なら、どうするのだ?」
「と、とにかく追いかけましょう!」
結華はそのまま城下の外れまで真っ直ぐ歩き続け……やがて辿り着いたのは……白い小さな花が一面に咲く花畑だった。
「信長様、ここは…」
「ふっ…結華め、この場所を覚えておったのか…」
この城下の外れの花畑は、季節の折々に家族で訪れる場所で、幼い結華も何度も連れてきていた思い出の場所だった。
結華は花畑の中に入ってしばらくの間、花を摘んでいたが、やがて小さな花束が出来上がると、その花束と、金平糖の入った風呂敷を大事そうに抱えて、来た道を迷うことなく歩き始めたのだった。
「信長様…」
しっかりとした足取りで城へ向かって歩いて行く小さな後ろ姿を、嬉しいような、でも少し寂しいような、何とも言えない気持ちで見守りながら、隣に立つ信長様に呼びかける。
「………帰るぞ。結華を出迎えてやらねばならんからな。
帰ったら……たくさん褒めてやらねばな」
「っ…はいっ!」