第3章 はじめてのおつかい
ペコっとおじきをしてお礼を言い、再び歩き出す結華に、女将さんは微笑みながら手を振っている。
「はぁ…よかった…」
ほっと安堵の息を吐くと、隣に立つ信長様も肩の力を抜いておられる。
「行くぞ、朱里っ」
「はいっ」
再び結華の後を追って歩き出すと、今度は迷うことなく菓子屋さんに辿り着いたようだ。
================
「いらっしゃいませ!……こ、これは、結華姫さまっ??
あのぅ…おひとりですか?父上様は?」
「……こんぺいとう、くださいっ!ちちうえの、いーっぱい、くださいっ!」
「あっ、金平糖…信長様の…はいはい、お待ち下さいね。
父上様のおつかいですか?おひとりで、えらいですねぇ」
ニコニコと笑いながら菓子屋の店主は、金平糖の小瓶を一つ、結華に差し出す。
「はい、どうぞ」
「いーっぱい、だよ?いーっぱい!」
「おや…では、もう一つ、どうぞ」
金平糖の小瓶がもう一つ、結華の前に差し出されるが、結華はまだ不満げな顔をする。
「……もう、一つ? えっ?もっと??」
結華の前に金平糖の小瓶が、一つ、また一つ、と並べられていき、終には五つ並んだところで、結華はようやく、にっこり笑った。
その純粋無垢な笑顔と反して、店主の顔は青ざめて強張っている。
「おい、朱里、貴様、金はいくら持たせたのだ?あんなに買えんだろう?」
「は、はい…小瓶一つ分の金子しか……」
(どうしよう、全部買えないって分かったら、泣いちゃうかも…)
「あ、あの、結華姫さま、金子はお持ちですか?」
「うん!持ってるよ、母上がここに入れてくれたよ、はい!」
結華が差し出した巾着を開いて中から金子を取り出した店主は、素早く金子の額を確認すると、にっこり笑って、こう言った。
「はい、では、金平糖五つ分のお代金は頂戴しました。
ですが、これ全部は重うございますから、姫さまは一つだけお持ち帰り下さいね。あとの四つはお城の父上様に、私が必ずお届けしておきますからね。
はい、これはおまけです。どうぞ、姫さま」
そう言うと、金平糖の小瓶を一つと、色とりどりの小さなお菓子を風呂敷いっぱいに包んでくれる。
「うわぁ〜、いっぱいだぁ…ありがとっ!」
満面の笑みを浮かべてはしゃいだ声を上げる結華。
その様子を陰から見ていた私達は、ほっと息を吐く。