第3章 はじめてのおつかい
その後、先回りして城へ戻った私達は、軽やかな足取りで戻ってきた結華を城門前で出迎えたのだった。
「ちちうえ、はいっ、こんぺいとう!
いーっぱい、食べてね!」
「ああ、ありがとう。これは、秀吉に見つからぬように隠しておこう……結華が父の為に買ってきてくれた大事なものだからな」
「うんっ!ははうえには、はいっ、お花だよ!」
「えっ…これ、私にくれるの??」
(あの花束…私へのお土産だったんだ…結華っ…)
「ははうえの好きなお花でしょ?ゆいか、自分で摘んだんだよ」
「っ…ありがとうっ…すっごく嬉しいよ!」
思わぬ贈り物に、嬉しさで胸がいっぱいになった私は、結華をぎゅうっと抱き締めた。
抱き締め返すように小さな手が私の背中に触れるのが、堪らなく愛おしくて……そのまましばらく離せなかった。
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「………寝たか?」
「はい。ふふ…疲れたんでしょうね、あっという間にぐっすりです」
その日の夜、結華は昼間のおつかいで疲れたのか、夕餉の頃にはうつらうつらし始め、湯浴みを終えて褥に入った途端に、糸が切れたように眠ってしまったのだった。
褥に片肘をついたまま横になった信長様は、金平糖の小瓶を行燈の灯りに透かしながら大事そうに手の中に包んでおられる。
それは結華が買ってきてくれた金平糖だった。
「食べないんですか?」
「ふっ…これは勿体なくて食べられんな」
「ふふ…信長様ったら…」
信長様の横に身体を寄せて褥に横たわると、すぐに肩を抱き寄せられて腕の中に閉じ込められる。
「今日はありがとうございました…はじめてのおつかい、無事に終わってよかったです」
「ああ…子はいつの間にか成長するのだな…まだまだ赤子のように思っておったのだが…」
「ふふ…そうですね」
「周りの者にも助けられたな」
「はい、ありがたいことです。結華には周りの皆に感謝できる子になってほしいと思います」
「……朱里」
「はい?」
「貴様が結華の母でよかった」
「っ…えっ?」
チュッと額に落とされた口づけは甘くて優しくて……信長様の愛がいっぱい詰まっているようだった。
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次の日、城の信長様宛てに四つの金平糖の小瓶が届けられ、秀吉さんにバレた信長様がこっぴどく叱られたのは……また別のお話
「おっ、御館様ぁ〜!」
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