第26章 あなたに恋して
名を呼ばれて顔を上げると、目が合った信長様は柔らかく微笑む。
「貴様に渡すものがあったのだ」
そう言うと、着物の袂に手を差し入れて中を探るように動かす。
ゴソゴソと探っていた信長様の手は、目的のものを見つけられたのか、私の目の前にぱっと突き出された。
「えっ…!?信長様、これ……」
美しい蒔絵が施された小さな器は紅の器で、信長様は私の目の前で蓋を開けてみせた。
それは目にも鮮やかな美しい赤色で、小間物屋で私が見ていたあの紅だった。
「っ…この紅、どうして…」
「貴様はいらぬと言ったが…俺はこの紅をつけた貴様が見たいと思ったのでな」
「そんな…これは…でも、私には似合わない色だから…こんなに大人っぽい艶めいた色は私には…」
(これは、あの遊女の女の人のような大人の女性に似合う色。私にはきっと似合わない…)
「だが、気に入っていたのだろう?ならば、似合わぬなどと最初から決めつけるのは勿体ない。ほら、目を閉じよ。つけてやろう」
「ええっ…でも…ああっ!」
ーちゅっ…
躊躇う私の目蓋に信長様が口付けを落とす。
目を閉じろと言うように、熱い唇を目蓋にグッと押し付けられて腰を強く引き寄せられると、先程まで散々に熱を注がれた身体が敏感に反応してしまう。
「んっ…やっ…」
「このまま目を閉じて…じっとしていろ」
耳元で甘く囁かれ、顎先を軽く持ち上げられた。
「っ…あ、んっ……」
唇に信長様の指先が触れる。
紅を掬った小指の先が唇の端から端へ、ツーっと滑っていく。
指先が口の端へ触れた瞬間、ジンっと甘い痺れにも似た感覚がして思わず小さく吐息を零してしまった。
(ん…目を閉じていると見えないから余計に敏感になってしまうみたい。殿方に紅をつけてもらうなんて初めてだし…)
信長様の指先の感触をうっとりとなりながら感じていると……
「……出来たぞ」
信長様の声にぱっと目を開けかけるが…
「こら、まだ閉じていろ」
再び目蓋に口付けが降って来て、無理矢理に目を閉じさせられた。
「の、信長様っ??」
驚く私の手を取って、信長様は部屋の中を歩いていく。
目を閉じたまま信長様に手を引かれ、連れていかれた先は………