第26章 あなたに恋して
「朱里、目を開けよ」
耳元で囁かれた低い声にピクリと身体を震わせながらも、私は言われたとおりに恐る恐る目蓋を持ち上げた。
「っ…あ……」
鮮やかな赤い紅を引いた唇が、驚いたように半開きになる。
艶やかな光沢のある赤は、色白の女の顔を一際際立たせて妖艶に見せている。
鏡の中の自分が自分ではない誰か別の女人になったような気がして、私は呆然と鏡台の前で立ち竦んでしまった。
「思ったとおり、良く似合っている。綺麗だ、朱里」
「っ……!」
背後から肩を抱くようにして鏡越しに私を見つめる信長様の目は、ひどく熱を帯びている。
鏡越しに目が合ってしまった私は、恥ずかしくて視線を彷徨わせてしまった。
「……何故、目を逸らす?」
「は、恥ずかしくて…こんなの、自分じゃないみたいで…」
艶めいた唇は何とも言えない色気を放っていて、紅一つで急に大人びたように見える自分に戸惑ってしまう。
「似合わない、相応しくないなどと決めつけて、己に縛りを掛けるなど愚かなことだ。少しでも心が動いたのならば、己の心に従えばよい。俺は常にそうして生きてきた。朱里、貴様にも俺の傍にいる限り我慢などして欲しくはない」
「信長様……」
背中から抱き締めてくれる信長様の体温を感じながら、その腕の中にそっと身を委ねた。
心のままに…
思うままに…貴方を愛して…貴方に愛されて…
信長様…私はこれからも貴方のお傍にいてもいいですか?