第26章 あなたに恋して
ードンッ!ゴロゴロゴロッ……
「やっ…やだぁ…いやっ…」
「朱里……?」
目の前で急に狼狽し始めた朱里を、信長は訝しげに見る。
両手で耳を塞ぎ、身体を小さく丸める姿はまるで幼子のように頼りなく見える。
先程まで信長を前にしても毅然とした態度を崩さなかった姿とはまるで別人のように、見るからに狼狽えた様子で震えている。
(雷が恐いのか…)
小さく肩を震わせる朱里を、信長は躊躇うことなく抱き寄せた。
震える身体を腕の中に閉じ込めて、耳朶にそっと唇で触れる。
「っ…あ…信長さま…」
「案ずるな。夕立ちだろう、すぐに鎮まる」
「は、はい…」
稲光りが走るたびに腕の中で小さく身体を丸める朱里を、信長はその都度強く抱き締めた。
雨音は激しくなるばかりで、地の底から響いてくるような重く低い雷鳴が止むことなく轟いていた。
どのぐらいの時が経ったのか、あんなに激しかった雷鳴が次第に遠のいていき、叩きつけるような雨も収まりつつあった。
「…朱里、この分だと間もなく雨も止むだろう。もう大丈夫だぞ」
腕の中に囲った朱里の顔を覗き込むと、ゆっくりと顔を上げた朱里と目が合った。
「っ……」
美しい黒曜石のような瞳を涙で潤ませ、悩ましげに安堵の吐息を零す姿が妙に色っぽく、欲を煽られる。
「ンンッ!あっ…ンッ!」
気が付けば、目の前の柔らかな唇を深く奪っていた。
「んっ…信長さまっ…待っ…」
突然の抱擁に驚いたように目を見張る朱里を、その身体を抱き締めたまま畳の上に押し倒す。
唇から顎先へ、顎先から首筋へと唇を滑らせていくと、朱里は淡い吐息を漏らしながら身を震わせた。
「っ…朱里っ…」
「やっ…んっ…ダメっ…」
身の奥に燻る熱を煽るような深い口付けに理性を失いそうになる。
先程まで互いに譲らず言い合っていたことも忘れ、今はただ与えられる熱に溺れ始めていた。
「くっ…朱里っ…貴様だけだ。欲しい、と俺が真に願う女は貴様しかおらん」
「信長さまっ…」
「不安にさせて悪かった。だが、遊女から情報を得るのは必要なことだ。戦において最も重要なのは情報だ。諜報に必要とあれば、俺は貴様以外の女にも甘い言葉を囁くだろう。偽りの愛も囁くかも知れぬ…それが真に必要であるならば。だからそれを許せと貴様には言わん」
射抜くような真摯な目で見つめられ、視線を逸らせなかった。