第26章 あなたに恋して
図星だった。
仕事だと分かっても、やっぱりすんなり納得できるわけではなく、二人の親密な様子が頭から離れなかった。
更には、信長様が遊女と会っていたことを誤魔化そうとなさったこと、正直に仕事だと言って下さらなかったことが引っ掛かっていて、いつまでもジクジクと胸の奥が痛むのだった。
(こんなことでいつまでも嫉妬心を捨てられないなんて…私はいつの間にこんなに欲張りな女になっていたんだろう。もっと余裕のある大人にならなくちゃ。信長様にふさわしい大人の女性に……)
秀吉さんと別れて自室に戻った後も、心が完全に落ち着くことはなかった。
ろくに話もせず勝手に一人で帰って来てしまい、信長様はどう思われただろうか、お怒りではないだろうか、と今になってひどく心配になっていた。
信長様も当然もう帰城されているだろう。
けれど…このモヤモヤする気持ちのままでは平静でいられそうになくて、自分から信長様の元へ行くことは躊躇われた。
ふと見れば、外はいつの間にか薄暗くなっている。
まだ日の入りの刻限には間があるはずだが…と思い、庭先へ出てみると、ポツポツと雨粒が地面を濡らし始めていた。
遠くの空で、ゴロゴロと雷が鳴る音が微かに聞こえていた。
夕立ちが来るのだろう…微かな水の香りと湿った草の匂いが鼻腔を擽る。
(雨か…酷く降らないといいんだけど。雷も…)
雷は苦手だ。
暗い空に不気味に光る稲光りとゴロゴロという腹の底に響くような低音に、言い様のない不安を掻き立てられて一人では耐えられなくなるのだ。
幼い頃には母が、物心付いてからは姉のような存在である侍女の千代が、雷が鳴るといつも傍にいてくれていた。
だが、ここは実家から遠く離れた安土の地。
母はいない。千代も用事があって外している。
小さな子供ではないのだから、いつまでも怯えてばかりではいられないのだ。
遠雷を避けるように庭に面する障子を閉めると、部屋の中が一気に薄暗くなる。
ポツポツと小さく鳴っていた雨音は次第に大きくなり、ざぁーっと勢いよく滝が流れ落ちるが如く激しい雨音に変わっていった。
雨足が酷くなるにつれ、部屋の中も益々暗くなっていく。
風も出てきたようで、ガタガタと障子が派手な音を立てていた。
(あぁ…嫌だわ。やっぱり降ってきちゃった…)
ただでさえ憂鬱な気持ちに追い打ちをかけるように雨が降ってくるとは…