第26章 あなたに恋して
「えっ…ええっ!?な、何?急にどうしたの、秀吉さん?」
「すまんっ!俺のせいなんだ。御館様はお前を裏切ってない。断じてそんなことはない!俺が全部悪いんだ。朱里、許してくれ!」
「ちょっ…待って待って…頭上げてよ、秀吉さん。信長様の話だよ?何で秀吉さんが謝るの?」
「いーや、俺が悪かった!誓って言うが、御館様は浮気などなさってない。信じてくれ、朱里」
「そ、それは私だって信じたいよ、信長様はそんなことをなさる方じゃないって。でも…この目で見ちゃったし…」
「いやいや、見たのは遊女と一緒におられるところだけなんだろ?口付けたりとか、そういうのじゃなかったんだろ?だったら…」
「でもっ…嫌だったんだもん!あんな風に身を寄せ合って…見るからに色っぽい大人の女の人と……」
「朱里……」
鮮やかな赤色の紅が似合うあの人は、信長様よりも少し年上に見えたけれど、それがまた何とも大人の色気を醸し出していて…自分にはないものを見た気がしたのだ。
(信長様が女性に人気があることなんて分かってたはずだ。恋仲になったからといって、私が信長様の全てを独り占めすることなんてできないんだ。それなのに、こんな風に嫉妬して…あぁ、私は何て愚かなんだろう…)
「……ゅり、朱里っ!」
「っ…あっ…秀吉、さん…」
呼びかけられて顔を上げると、今度は秀吉さんが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「…ごめん、秀吉さん。私、もう自分の部屋に戻るね」
秀吉さんにこれ以上心配をかけたくなかった。
理由は分からないが、自分のせいだと言って頭まで下げてくれた秀吉さんをこれ以上苦しませたくなかった。
秀吉さんの顔を見たらまた泣いてしまいそうで…顔を伏せたまま、くるりと背を向けた。
「ちょっと待て、朱里っ…あ、あのな、これには事情があってだな、その…違うんだ、誤解なんだよ…」
視線を避けて入り口に向かいかけた朱里の腕を、秀吉は素早く掴んで引き止める。
今、この場で朱里の誤解を解かなければ面倒なことになる。
朱里の悲しげな顔と信長の不機嫌そうな顔が頭に浮かんだ秀吉は、必死の思いで朱里を引き止めたのだ。