第26章 あなたに恋して
「いい子だから泣かないで、理由(わけ)を話してみろ。俺にできることは何でも相談に乗るぞ」
ぐずぐずと泣く私を城内の自室へと連れてきた秀吉さんは、よしよしと子供にするように何度も頭を撫でてくれながら、俯く私の顔を覗き込んだ。
(本当にお兄ちゃんみたい。信長様とのことだけど…秀吉さんになら話せるかも…)
信長様の忠実な家臣である秀吉さんは、何よりも信長様第一だ。
『御館様のためなら、この命惜しくはない』と日頃より公言しているぐらい、信長様を敬愛して止まない人だ。
そんな真っ直ぐな秀吉さんに信長様の浮気疑惑を相談してよいものかと若干迷いはしたものの、優しい秀吉さんに今は頼りたい気持ちの方が強くて…私は重い口を開いた。
「なっ…そんなっ…御館様が…浮気??」
逢瀬の途中で私を置いて信長様が別の女人と会っていたという話をすると、秀吉さんは信じられないという顔をした。
「見間違いじゃないのか?御館様に限ってそんなこと…朱里を裏切るような真似…有り得ないだろ?」
「私だって信じたくないけど…光秀さんと一緒に見ちゃったんだもん。信長様がその、遊女の女の人とイチャイチャしてるとこ…」
「光秀?何でそこで光秀が出てくるんだ…あいつ、また余計なことしてんじゃねぇだろうな…っていうか、遊女?御館様が遊女と逢引だとっ…そ、それはその、あれだ…違うんだ…いや、違うっていうか、その…何て言うか、ああ、いや、その、なんだ…くっ…朱里に見られるなんて…くそっ、俺としたことが…考えなしだった…」
私の話を聞いた途端、秀吉さんは苦々しげに顔を顰め、しどろもどろになりながら、ブツブツと独り言を言い始める。
しまいには、はあぁ…と盛大な溜め息を吐いて頭を抱えてしまった秀吉さんに、私は先程まで自分の方が落ち込んでいたことも忘れて慌てて声を掛けた。
「あ、あの秀吉さん…?大丈夫?」
秀吉さんのあまりの狼狽ぶりに心配になってしまい、そっと顔を覗き込む。
(何、この状況?秀吉さん、どうしちゃったんだろう…)
「朱里っ、すまんっ!」
徐ろに顔を上げた秀吉さんは、いきなりガバッと私に頭を下げた。