第3章 はじめてのおつかい
城門を出た結華は、よそ見をすることなく真っ直ぐ前を向いて、城下へと続く階段を降りていく。
私と信長様は、結華に気付かれぬように距離を取って、その後ろをこっそりとついていった。
やがて城下へ出た結華は、いきなり早足で駆け出した。
「えっ、ええっっ!」
(嘘っ、なんで走るのっ??あっ、危ないよぅ…)
城下の大通りは午前中でもそれなりに人出があり、小さな結華は人混みに埋もれてしまいそうだった。
「おい、朱里、こっちも急ぐぞっ」
「は、はいっ!」
気付かれぬように早足で歩きながら、前を行く結華の姿を目で追うと、トコトコと小走りで駆けていたのが、急に立ち止まる。
(っ…わっ…)
慌てて路地に身を隠し、様子を見ると……
(あれっ?なんかキョロキョロしてる…もしかして、迷っちゃった?)
立ち止まっては辺りを見回し、また数歩歩いては立ち止まり、という動作を繰り返す結華。
そのうちに一歩も前に進まなくなり…巾着から地図を出して見ているようだけど…首を傾げている?
「おい、あの地図…本当に子供に分かるのか??」
不信感たっぷりの声で聞いてくる信長様の冷ややかな視線が痛い。
「だ、大丈夫ですよ、私が書いたんですから…」
「…………………」
(あれ?なんで、そこで黙るかな?)
道の真ん中で立ち止まったまま、地図を覗き込む結華は、往来の邪魔になっているらしく…突然、後ろから来た人にぶつかられた。
ードンツ! ベチャッ
(きゃっ!結華っ…)
転けてペタンと尻餅をついた結華は、びっくりしたような顔で座り込んでいる。
その顔がくしゃっと、見る見る内に歪んでいき………
(あっ…泣く!?泣いちゃう!?)
もうダメか…そう思って息を呑んだ、その時……
「あらっ、まぁまぁ、結華姫様じゃないですかっ…あら?おひとりですか??父上様と母上様は?」
賑やかな声が、大通りに響き、泣きそうになっていた結華もきょとんとした顔をしている。
(茶屋の女将さんだっ)
「…ちちうえのこんぺいとう、買いに行くの…おみせ…」
「まぁ!お一人でおつかいですか?偉いですねぇ」
「おみせ…どこ?」
「えっ、あっ…お店…そうですねぇ、ここを真っ直ぐ行って、三つめの角を右、こっちの手の方ね、に曲がったらありますよ?」
「………うんっ!ありがと!」