第26章 あなたに恋して
「私…何やってるんだろう…」
自分がひどく惨めに思えた。
見苦しい嫉妬と子供っぽい独占欲の塊みたいな自分が嫌で堪らなかった。
「やれやれ…お前は何か誤解をしているようだが…俺が今、何を言っても信じぬだろう。ならば俺は早々に退散するとしよう。後はご本人の口から説明してもらえ」
「えっ…あの、光秀さんっ…えっ、あっ…」
ひらりと身を翻した光秀さんは、呼び止める間もなく路地裏へ立ち去っていく。
一瞬の出来事に戸惑い、光秀さんが去っていった方を呆然と見ていると………
「朱里、貴様、ここで何をしている?」
「っ…あっ…信長…様…」
いつの間に傍に来られていたのか、信長様が私を見下ろすように立っていた。
「何故、こんなところにおる?俺は、茶屋で待っているように言ったはずだが?」
「そ、それはその…色々あって…っ…の、信長様はどうなのですか?その…女の方とご一緒で…ここで何を…?」
「っ…女、とは?何のことだ?」
「えっ…ええっ…や、だって、さっきまで抱き合って…って、えっ…あれ?いない…?」
見れば店先には既に先程の女人の姿はなく、入り口の戸も何事もなかったかのように固く閉ざされていた。
「あ、あのお店です。あそこで女の方とご一緒にいらしたでしょう?私、光秀さんと見たんですよ?」
「光秀と?これはおかしなことを言う。光秀はどこにおる?貴様は何を見たと言うのだ?」
「そ、それは…その…」
(えっ…待って…おかしい…私、何か間違ってる…?光秀さんったら『本人に聞け』なんて言って…これじゃあ、聞くどころじゃないよ…)
私は確かにこの目で見たというのに、信長様は私をはぐらかすつもりなのか、素知らぬ顔をしている。
信長様を問い詰めることなど私にはできそうもなく、はぐらかされたことで余計に浮気が真実味を帯びたような気がして、グッと胸が締め付けられる思いがした。
(っ…何で隠すの?あの女人とは、やっぱり隠さないといけない関係なの?じゃあ私は…私は信長様の何なんだろう…今日は久しぶりの逢瀬じゃなかったのだろうか。楽しみにしていたのは私だけ?
っ…愛してるって言って下さったのは、単なる戯れだったのだろうか?
っ…いけない、嫌なことばっかり考えちゃって…こんなの、ダメなのに…)
思いが溢れてどうしようもなく、ドロドロと濁った感情が胸の内を黒く染めていく。