第3章 はじめてのおつかい
「じゃあ、結華、この巾着の中に、金平糖を買うお金とお店の地図を入れておくよ。
こうして、肩から掛けて、落とさないように、ね。
困ったことがあったら、近くのお店の人に聞くんだよ?
知らない人には、ついて行っちゃダメだからね、分かった?」
「……う、ん…」
(っ…あれ?さっきまでやる気満々だったのに…)
城門の前まで来て色々と話をしている内に、結華の顔色は段々と冴えないものになってきて、ついには今にも泣き出しそうになっていた。
(まずいっ…泣いたら即中止、だっけ…)
焦って更に声を掛けようとする私を、信長様は静かに制して、結華と目線を合わせるようにその場に膝をつく。
そのまま黙ってぎゅうっと抱き締めると、トントンと結華の小さな背を摩りながら、声を掛ける。
その声は、この上なく優しくて暖かかった。
「結華は優しいな、父のお願いを聞いてくれて。
金平糖、楽しみに待っておるからな」
「…うんっ!待っててね、ちちうえっ、ゆいか、いーっぱい買ってくるよ!」
「うっ……」
小さな両手を横いっぱいに広げて、「いーっぱい」と言う結華が可愛すぎて、もはや眩暈がする。
(くっ…そんなには要らんが…これは…可愛すぎて罪だな)
信長様の愛情たっぷりの見送りに元気を取り戻した結華は、「行ってきま〜す」と元気に手を振って城門を潜っていく。
その姿を、しみじみと見送っていると、いきなり横から強く手を引っ張られてよろめく。
「っ…わっ!」
「朱里、行くぞっ!ぐずぐずしていて、結華を見失ったらどうする?」
「は、はぁ…」
信長様の気合い十分な様子に若干引きつつも、私も我が子が心配な気持ちは同じだったので、手を引く信長様の後に慌ててついて行ったのだった。