第24章 夜はお静かに
「結華、待て。大丈夫だ、父と母は喧嘩などしておらん。父は母を苛めたりしていないぞ」
「本当に?」
ジロリと疑わしい目で見られて、その可愛らしさに信長は思わず吹き出してしまった。
「ちちうえっ!」
「はは、すまんすまん。この父が母に酷いことなど、するはずがなかろう?これは…そうだな、母上が眠れないと言うのでな、二人で少し遊んでおったのだ。結華を一人にして悪かったな」
結華の頭を撫でてやりながら、さりげなく朱里のナカから己を抜く。
慎重に抜いたつもりだが、ぐちゅっと湿った水音が漏れてしまい、内心ヒヤリと肝が冷えた。
結華には音は聞こえなかったようで、大好きな父に頭を撫でられて嬉しそうに表情を緩めている。
朱里が、声が漏れないように慌てて口元を押さえているのが見えた。
(部屋が薄暗いのが幸いだったな…)
明るければ完全に言い逃れ出来ない状況だが、不自然ながらも何とか誤魔化せている…ように思う。
(まぁ、仮に見られても幼い結華に意味が分かるとは思えんが…気不味くはなるわな)
「遊んでたの?ちちうえとははうえで?何の遊び?いいなぁ…結華も!結華も一緒に遊びたい!」
結華は、父と母の不自然な様子よりも遊びという言葉の方に興味を惹かれたようで、はしゃいだ声を上げる。
だが、そうは言っても、やはり幼い子供のこと、偶然夜中に目が覚めただけなので眠気には勝てないようだ。
相変わらず目を擦りながら眠そうにしている。
「結華、遊ぶのはまた明日にして、今日はもう寝ようね。朝まで三人一緒だよ」
朱里は乱れた夜着の襟元を掻き合わせながら身を起こし、眠そうな結華を腕の中に招き寄せる。
「う〜ん…ははうえ…」
「うんうん…さぁ、お布団に戻ろうね」
「ははうえ…一緒に寝るの…」
「うん、朝まで一緒だよ。父上も母上も、もうどこにも行かないよ〜」
結華を腕に抱いて立ち上がった朱里の顔は、先程まで信長の下で淫らに啼いていた妖艶な女の面影など一切なく、すっかり母親の顔になっていて……その場に信長を残し、二人は寝所の方へと去っていく。
後に残された信長は一人、褥の上に胡座を掻いて、はぁ…っと大きな溜め息を吐いた。