第24章 夜はお静かに
「ふぇ…ははうえ、どこぉ?」
スパンっと勢いよく襖を開く音とともに、濃密な閨の空気に不釣り合いな、愛らしく幼い声が聞こえた。
その声の主の顔が瞬時に思い浮かんだのか、信長の下で朱里がビクリと身体を震わせる。
薄闇の中でも分かるぐらい顔を強張らせて口元を手で覆い、嫌だと訴えるように、ふるふると首を振っている。
信長も、今まさに精を吐き出そうという瞬間だったのだが、奇跡的に理性を取り戻して最悪の事態は免れていた。
が、当然、二人の身体は繋がったまま…信長のモノはこの危機的な事態にあっても一切萎えることなく、朱里のナカで存在を主張している。
「ちちうえ…?ははうえ、どこ?」
「っ…結華っ…」
眠そうに目を擦りながら襖の前に立っていたのは、二歳になる娘の結華だった。
今宵、いつものように結華を寝かしつけた後、二人は隣室に敷いた布団へ移動し、行為に及んでいた。
もっとずっと前、結華がまだ乳飲み子だった時分から、夜は天主で三人、布団を並べて眠ってきた。
必然的に夫婦の営みは子が眠りについた後、子が眠る傍らで声を抑えてひっそりと…という格好になり、交わりの頻度も減ってしまった。
だが、結華も少しずつ大きくなり一歳を過ぎた辺りからは何かと物事が分かるようになってきて……さすがに眠る娘のすぐ傍で行為に及ぶのは気が引けるようになった。
何よりも朱里が恥ずかしがって伽に応じてくれなくなったために、別室へ移動してそこで…という妥協策が取られることになったのだった。
子供というのは眠りが深い。
乳飲み子だった時はなかなか寝付かなかった結華も、今では一度寝付いたら朝まで起きない。
多少の物音がしても大丈夫……のはずだった。
「ふっ、ふぇ…ははうえ…」
今にも泣き出しそうに、くしゃっと顔を歪ませる。
不意に目覚めたら父も母もおらず、真っ暗な部屋に独りぼっち……二歳の子にはさぞ心細かったに違いない。
結華の心情を思うと、胸が痛むけれど…さて、この状況をどうしたものやら……
信長は朱里の身体を組み敷いたまま、悩ましげに眉を顰めた。
一方、朱里は酷く動揺しているようで、一刻も早く信長から離れねばと必死で身を捩っている。
が……信長は分かっているのかいないのか、一向に退いてくれないのだ。
『の、信長様っ…早く離れて!』
声なき声で必死に訴えるが……