第23章 怪我の功名
(鷹を献上した大名は、怪我をした信長様を目の当たりにして顔色を失って平謝りだったって秀吉さんから聞いたけど、信長様は本当に全く気にしていないみたい。ご自分の怪我より鷹を気にかけるなんて、信長様らしいけど…)
「……痛みますか?」
「ん?あぁ…少しはな。まぁ、一晩寝れば治るだろう。案ずるな」
「そう…ですか…」
そうは言っても心配だ。
自分に何もできないのがもどかしい。
(家康が戻って来たら痛み止めの薬湯を用意してもらおう。今は心配することしかできないなんて…不甲斐ないな、私)
その夜、信長は一人、褥の上に腰を下ろし、真新しい包帯が巻かれた自身の足を見ていた。
侍女の言ったとおり、時が経つにつれて腫れが出てきたようで、心なしか患部も熱っぽい気がする。
ただの捻挫、放っておいても治るだろうが、この様子では今宵は安静にするしかないだろう。
「はぁ……」
思えば、最近、政務が忙しくて朱里と満足に触れ合えていなかった。
今日は大名との鷹狩りの後、夜は軽く宴をして、その流れで朱里に夜伽を命じようと秘かに考えていたのだが、思わぬ怪我のせいで全てが台無しになった。
自業自得だから嘆いても仕方がないのだが、期待していただけに落胆も甚だしい。
ズキズキとした足の痛みが、信長の落胆に更に拍車をかけるようで、思わず大きな溜め息が出てしまった。
(仕方がない。もう寝るか。眠ってしまえば諸々の痛みも忘れるだろうし…朱里なしで眠れるかは分からんが)
今宵は怪我のため秀吉に寝酒も禁止させられている。
もう諦めて横になろうと身を捩ったその時だった。
「……信長様?あの、もうお休みですか?」
襖の向こうから聞こえてきた遠慮がちな愛らしい声に、我知らず心が踊る。
今まさに信長が一番逢いたかった愛しい女の顔が、自然と目に浮かぶ。
弾んだ声が出そうになるのを抑え、平静を装いながら言葉を返す。
「っ…まだ起きておる。入ってこい、朱里」
「はい…」
そっと襖が開かれて姿を現した朱里は白い夜着姿で、緊張しているのか、少し表情が硬いように見えた。
褥の上に座る信長の足元を見て、悩ましげに目を細める。
「ごめんなさい、もうお休みになるところでしたか?」
「いや、構わん。それよりどうした?このような時刻に…」
(そんな悩ましい格好で恋仲の部屋へ来るなど…)