第23章 怪我の功名
「の、信長様っ!」
バタバタと勢いよく駆ける足音の後、スパーンっと襖が開かれた。
信長がゆっくりと視線を上げると、開かれた襖の向こうに、はぁはぁ…と息を切らして立っている朱里の姿が見える。
「何だ?騒々しいな」
「信長様っ、お、お怪我をされたって…っ…大丈夫なんですか?」
朱里の視線が信長の足首に注がれる。
胡座を掻いて片足を投げ出した格好の信長の足元には侍女が跪き、ちょうど足首に包帯を巻き付けているところだった。
侍女は、朱里を見て申し訳なさそうに頭を下げる。
いつもなら信長の治療には織田家の御典医か、家康のどちらかがあたるところなのだが、生憎と今日は二人とも不在のようだ。
御典医は京へ行かれていて今日は戻られず、家康は駿府に行っていて戻りは夜になるらしいのだ。
「おみ足を捻られておりますので固定させていただいております。これから腫れてくるやもしれませぬ。家康様がいらっしゃれば、お薬湯なども作って下さるのですが…今はとにかく安静にしていただくしか…」
応急的な手当を終えた侍女が不安そうな表情で退出していくのを見送ってから、改めて信長に向き直る。
足首に巻かれた真っ白な包帯が痛々しく、朱里はきゅっと眉を顰めた。
「そんな顔をするな。大した怪我ではない。少し捻っただけだ」
「でも……」
「俺としたことが、つまらぬ怪我をしたものだ」
珍しく自嘲気味に言う信長様の様子に戸惑いを隠せない。
「信長様…」
今朝、信長様は早朝より傘下の大名と鷹狩りに出掛けられていた。
その大名は信長様に挨拶をするために安土を訪れており、信長様と同じく鷹狩りが趣味だということだった。
そして今朝の鷹狩り、信長様が珍しく羽黒ではない別の鷹を連れて行かれたのは、その鷹が件の大名から最近献上されたばかりの鷹だったからだ。
まだ慣れていない鷹ゆえに、信長様と息が上手く合わなかったのだろう……
獲物を捕らえて戻る際に目測を誤って暴れた鷹を受け止め損ねた信長様は身体の均衡を崩してその場に倒れ、その際に足首を捻ってしまったのだそうだ。
「受け止め損ねたのは俺の責任だ。我ながら情けないことだ。鷹に落ち度はないし、鷹を献上した大名が責任を感じることもない。大ごとにはしたくないゆえ、貴様もこの件について騒ぐでないぞ」
「は、はい…」