第22章 武将達の秘め事④
信長の不機嫌そうな様子に、何となく気まずい雰囲気が漂う。
(最後は信長様の話…だったんだが、これは聞きづらい感じになっちまったな)
ただでさえ聞きづらい信長の”初めて”の話。
こういった男同士の飲み会の場ではお決まりの際どい話も、いざ信長に聞くとなるとやはり緊張するのだ。
「それでは最後は御館様のお話を…」
「おい、光秀っ!御館様にそんな話、させられるわけねぇだろうが!」
慌てた秀吉が信長を庇わんと前に出ようとしたその時……
「皆さん、お酒の追加、お持ちしましたよ〜」
気まずくなった場の雰囲気を打ち払うような明るい声の主が広間に入って来た。
「朱里っ!?」
「朱里様、どうしてこちらに?」
「あ、ええっと…今日の宴は参加するなって言われてたんだけど、たまたま厨の前を通りかかったら、皆、忙しそうだったから…その、ちょっとお手伝いをと思って…」
モゴモゴと言いながら、チラリと上座の信長の様子を窺う。
(来るなっていう言いつけを破って勝手に来ちゃったから…信長様、怒ってるかな?でも、やっぱり気になるんだもの…)
『今宵は男同士の飲み会ゆえ、貴様は来るな』
そんな風に言われてしまうと、気になって仕方がないではないか。
男だけなんて言いながらも、実は女性を侍らせたりなんかして…?などと、よからぬ想像をしてしまい、厨方の手伝いを口実にして来てみたのだった。
(女の人はいないみたいでよかった。本当に武将達だけの飲み会だったんだ)
「 朱里、こちらへ 」
名を呼ばれて、慌てて上座の信長様を見ると、ニヤッと悪戯っぽく笑われてしまう。
全て見透かされているようで恥ずかしかったが、それでも呼ばれたことが嬉しくていそいそとお傍へ寄ると、信長様は胡座を掻いた自身の膝をぽんぽんと叩いてみせる。
(えっ…膝の上に座れってこと??そんなの、恥ずかしい…)
「あ、あの、信長様?」
「ほら、早く来い。構って欲しくて来たのではないのか?」
「やっ…そ、そういうわけでは…」
(一人で待ってるのが淋しかったのは本当だけど、皆の前で信長様の膝に乗るのは恥ずかし過ぎる…)
「あ、あの、信長様….恥ずかしいです…っ、ひゃっ!」
武将達の視線をひしひしと感じて躊躇っていた私に痺れを切らしたのか、信長様はその場でいきなり私を抱き上げたのだった。