第22章 武将達の秘め事④
「やっ…信長様…?」
「皆の前では恥ずかしいのなら、このまま天主へ行くぞ。秀吉、俺は先に終いにする。後は貴様らで存分に楽しめ」
「はっ!」
「や、やだぁ…降ろして下さい、信長様。私、一人で歩けますから!」
「くくっ…貴様、分かっているのか?これは仕置きだぞ?俺の言いつけを守らず、このような場へのこのことやって来るとは…」
「だって、心配で…」
「んー?心配だと?くくっ…一体、何の心配をしていたのやら、なぁ?つまらぬ詮索をした罰に、今宵は俺の褥を暖めよ。久しぶりに可愛がってやる」
「っ……」
「……ご機嫌だったな、信長様」
愉しげに朱里を揶揄う信長の笑い声が次第に廊下を遠ざかっていくのを無言で聞いていた武将達だったが、政宗がさも可笑しそうに言う。
「あの人、朱里の前だとあんな風に笑うんですね」
家康は、意外なものでも見るような目で信長が去っていった方を見ている。
「いやはや残念…御館様の貴重なお話を聞きそびれたな」
「こら、光秀っ、その話はもう止めろ!」
「とか何とか言って、お前も本当は聞きたかったんじゃないのか?敬愛する主君の夜の初陣の話だぞ?」
「くっ、それは…しかし…御館様に皆の前でそんな話をさせるわけにはいかんだろうが…」
「ははっ…秀吉は相変わらず真面目だな」
困ったような情けない顔になる秀吉の肩をぽんっと叩いて、政宗は快活に笑う。
「さぁ、今宵も飲んで食って、語り明かそうぜ」
政宗が皆に酌をしてやっているのを見ながら、光秀は盃の酒をグィッと一気に呷る。
冷えた酒が喉元を落ちていくのを心地よく味わいながら、愉しげな信長の声を思い出して口元を緩める。
(今宵は久しぶりに小娘とゆっくりお過ごしになるのだろう。御館様と語り明かせぬのは残念だが……明日はきっとご機嫌だろう)
朱里と出逢ってから時折見られるようになった信長の穏やかな顔を思い浮かべながら、光秀もまた、らしくもなく柔らかく目元を緩めて盃を口に運ぶのだった。