第22章 武将達の秘め事④
「俺か?俺は至って普通だ。武家のしきたりに則って、元服の夜に親族の内の年上の女が手解きしてくれた。武家の男子の手本みたいな筆下ろしだろ?」
「…………」
政宗らしくない真面目な話に、皆、どう返していいものやら返事に困る。
「意外ですね。政宗さんなら元服前にさっさと済ませてたと思ってました」
「伊達家はお堅い家柄だったんだよ、親父の代まではな。で、光秀はどうなんだよ?明智家は美濃の名門だったんだから、さすがのお前も元服は古式に則ってやったんだろ?」
「まぁ、そうだな、元服はな…だが、その夜が初めてとは限らない」
「お前も先に済ませてた口か。で、いつだ?相手は?」
臆することなく、光秀に次々と質問する政宗を、皆は面白そうに見ている。
隠密活動が多く、秘密が多い光秀の話には、皆が興味津々だったのだ。
「さて…いつだっただろうな。相手のこともよく覚えていないぐらいだからな。初めてとはいえ、その程度の思い出ということだ」
「………………」
(光秀はやっぱり光秀だな。聞くだけ無駄ってもんだったか…)
飄々とした態度を崩さない光秀を見て、皆が小さく溜め息を吐く。
「それじゃあ、次は…三成か…ええっと、三成は…もう、済ませてる…よな?」
皆が秘かに気になっていることがある。気にはなっているが、何となく聞きづらい…三成は女を知っているのかどうか……
「あ、その、私は秀吉様にお仕えする以前、子供の頃から寺に入っていましたから…ご存知のように寺は女人禁制ですし、武士ではないので元服などもありませんから、女性とそういうことになる機会はなく……というのは建前で…」
「………へ?」
「寺には武家や裕福な商家の女性が加持祈祷に訪れたりもするのですよ。女性達の接待は若い寺小姓が命じられるのですが…まぁ、所謂そういう接待も含まれておりまして…お恥ずかしながら私もそれで大人になりました。
どうだったかと聞かれましても…その時は相手の女性にされるがままでしたのでよく覚えておりません。
その後、程なくして秀吉様にお仕えすることになって寺を出ましたので…今はどうなのでしょうね」
「寺の風紀の乱れは昔も今も変わらぬということだな」
憮然とした表情で三成の話を聞いていた信長は、吐き捨てるように言う。
仏に仕える身でありながら酒池肉林に溺れる者を、信長は最も嫌っている。