第22章 武将達の秘め事④
「家康、お前、かけ過ぎだ、それ。あーあ、せっかくの煮物が台無しじゃねぇか…」
「いいんです、俺はこれで。ちょっ…政宗さん、離して下さい」
家康を後ろから羽交い締めにしながら、真っ赤になった皿の中を覗き込む政宗に、家康は嫌そうに顔を顰める。
「あぁっ、光秀、お前、飯と煮物を混ぜんじゃねぇ!ったく、どいつもこいつも…あーあ、朱里がいたら作り甲斐もあるんだがなぁ。あいつ、何でも美味そうに食ってくれるし、ほんと可愛いよな」
「おい、政宗っ、口を慎め。朱里は御館様の…」
秀吉が気まずそうに言いながら、上座の信長の顔色を窺う。
朱里に対しては皆、少なからず好意を持っているようだが、信長と恋仲になったらしい彼女に、あからさまな態度を見せるのは憚られたのだ。
「分かってるって、秀吉。朱里はもう、信長様のもんだろ?でも…実際のところ、どうなんですか?信長様」
「……どう、とは?」
酒の場とは思えぬほど、その場がヒヤリとするような冷静な口調で答えながら、信長は政宗を見据える。
「朱里には、もうお手を付けられたのか、ってことですよ」
「おいっ、政宗!」
慌てて腰を浮かせ、政宗を咎めようとする秀吉を、信長は無言で制する。
「……それを聞いてどうする?」
「いやぁ、そりゃ気になるでしょう?信長様が自ら求められた女なんて滅多にいない。しかもあいつ…生娘でしょう?どうだったのかな、と…」
「ちょっと政宗さん…」
家康は顔を赤くしつつ、政宗を嗜める。
「お前も興味あるんだろ、家康?」
「俺はそんな…別に…興味なんて…そんなの、面倒ですし…」
「”初めて”の女なんて面倒だって?そうだよなぁ…百戦錬磨の信長様のお相手が生娘なんて、そりゃ気になるよなぁ?」
「ちょっと、俺はそんなこと一言も言ってないですよ!?」
「政宗っ、お前、いい加減にしろ!御館様に無礼だぞ」
「お前も心配してたじゃねぇか、秀吉。可愛い妹分が大事な主君に初めてを捧げたのかどうか…気にしてただろ?」
「くっ…言うな、政宗っ…」
「皆様、これは一体…何のお話でしょうか?」
皆がこの話題にそわそわと落ち着かない中、三成だけがよく分からないといった顔をしている。