第22章 武将達の秘め事④
「三成は知らなくていい話だよ」
「そうだな、三成には刺激が強すぎる。朱里の”初めて”の話だからな」
「おい、光秀っ、話をややこしくするな。朱里の”初めて”の話じゃなくて…御館様と朱里がそのぅ…結ばれたのかどうか…聞きたいのはそこだけだろ?」
「………お前も本当は聞きたかったんだな、秀吉」
ニヤニヤと含み笑いをする光秀に、秀吉は慌てて弁明を述べる。
「い、いや、そういうわけでは…決して興味本位などではなく…朱里のことが心配で…お、御館様の閨事に口を出すつもりはなくて…その…」
「……はぁ…もうよい、秀吉。黙れ」
「も、申し訳ございません…」
畳に額が付くほどにガバッと平伏する秀吉を、信長は冷ややかな視線で見下ろす。
(全く…何故にこんな話になったのか…皆が俺と朱里の仲を気にしているのは分かってはいたが…)
朱里を抱き、その身も心も己のものにした。
実のところ、初めて抱いた夜以降、忙しくてなかなか閨を共にできていなかったのだが…朱里が俺のものになったのは事実だ。
だが、まだ恋仲になったばかり。正式にどうこうするという話ではなかったから、特に皆に宣言するつもりもなかった。見ていれば分かるだろう…と。
(だが、皆、俺が思っていた以上にモヤモヤしていたというわけか…今更改めて言うというのもおかしな話だが…)
「貴様らの想像どおり、朱里は俺のものとなった。あやつを抱く男はこの先も俺以外はありえん。貴様らも、その旨、肝に銘じておくがよい」
毅然とした態度で宣言する信長に、武将達もそれ以上踏み込んだ質問をすることも憚られて、この話は何となく終いかと思われたのだったが……
「はぁ…朱里の”初めて”の話、興味あったんですけどねぇ」
「おい、政宗っ、その話はするなって!第一、御館様が話されるわけないだろ…」
信長が朱里との閨事のことを話すはずなどないと分かってはいながらも、皆、物言いたげにジッと見つめてしまう。
「………言わんぞ」
(愛しい女の艶めかしい話を他の男に聞かせるわけがないだろう)
苦虫を噛み潰したような苦々しい表情になる信長のことが、武将達には何とも微笑ましく思えた。