第22章 武将達の秘め事④
とある日の夕刻
ここ安土城の大広間では、武将達による飲み会が行われていた。
「ほら、料理の追加持って来たぞ〜」
両手に大皿の料理を抱えた政宗が広間に入ってくると、既に武将達は大分酒が進んでいるようだった。
「御館様、どうぞ!」
上座では、秀吉がいそいそと信長に酌をしている。
「おい、秀吉、近いぞ」
今にも膝が触れ合いそうな距離までにじり寄ってくる秀吉に対して、信長は嫌そうに顔を顰めてみせる。
「さぁさぁ、料理も召し上がって下さい。酒ばかりではお身体に良くないですよ!」
「くくっ…まるで母親…いや、嫁というべきか…」
甲斐甲斐しく料理を皿に取り分けている秀吉を見て、隣の席の光秀が面白そうに笑う。
「おい、気持ち悪いことを言うな、光秀。せっかくの酒が不味くなる」
光秀をジロリと睨んでから、信長は盃を一息に空ける。
「お、御館様ぁ…くっ、光秀、余計なこと言うんじゃねぇ!」
「くくっ…これはご無礼を、御館様。それにしても…今宵は小娘を呼ばずともよろしかったので?」
「…よい。今宵は男だけの集まりだ。貴様らもたまにはハメを外したかろう?女子がおっては、出来ぬ話もある」
城で開かれる宴には大抵、武将達とともに参加している朱里だが、今宵、この場にその姿はなかった。
先頃、信長が関東の北条家と同盟を結ぶ際に、小田原から連れ帰った北条家の姫。
半ば強引に安土へ連れて来られた彼女は、始めの内は自らの居場所を見つけられず不安そうにしていたが、いつの間にやら城の者達にも馴染み、武将達にも世話を焼かれて、どうやら信長とも恋仲になったようだった。
どうやら…というのは、信長から正式な発表がないからであり…二人が結ばれたらしいというのは皆が想像するところではあるのだったが……
「なるほど…確かに女子には聞かれたくない話もありますな。皆、酔うと何を言い出すやら分かりませんから…」
「はっ、よく言うぜ、光秀。お前は酔うことなんてないだろ?」
酒の代わりに茶が入った盃をグイッと飲み干した政宗は、面白そうに言う。
「政宗さんは酔わなくても際どい発言が多いですけどね」
料理が赤く色づくほど唐辛子を振りかけながら、家康がボソリと呟くように言う。