第21章 誕生日の朝に
「信長様?」
黙ったままの俺を、朱里は心配そうに見上げる。
「信長様、あの、怒ってますか?ごめんなさい…あの…」
(どうしよう…誕生日なのに、信長様を怒らせてしまうなんて…そんなつもりじゃなかったのに…)
信長様のお誕生日には、毎年数え切れないぐらい沢山の豪華なお祝いの品々が届き、多くの方がお祝いに訪れる。
城下もお祝いの雰囲気いっぱいで、さながらお祭りのように賑やかになり、町全体が華やいだ空気に包まれるのだ。
皆が信長様を祝福する幸せな一日は、私にとっても嬉しい一日ではあったのだけれど……信長様を皆にとられてしまったような何となく少し淋しい気持ちもあって……
(信長様を独り占めしたいなんて、我が儘過ぎたかな、私)
豪華なお祝いの品は用意できないけど、朝餉には信長様のお好きなものを作って、二人だけでゆっくり味わえたらいいなと思い、今朝は早めに起き出したのだ。
信長様を驚かせたいという気持ちもあって、黙って褥を抜け出したのだが、どうやらそれがいけなかったらしい。
隠し事を嫌われる信長様の機嫌を損ねてしまったようだ。
「信長様…ごめんなさ…」
「よい、もう怒ってない…いや…最初から怒ってなどいなかったのかも知れん」
「えっ?」
ポツリと呟かれた言葉を聞き取れなかったのか、朱里が可愛らしく首を傾げるのを見て、信長は心が次第に凪いでいくのを感じていた。
「さて…では着替えるとするか。今日はここで二人だけで朝餉をとるのだろう?」
「っ…はい、すぐにご用意致します!お着替えもお手伝いしますね!」
理由は分からなかったが、表情が緩んだ信長を見て、朱里はほっと胸を撫で下ろす。
(ご機嫌が直ったのかしら。それならよかったけど…誕生日の今日という日を嫌な気分で迎えて欲しくないもの……って、そういえば…)
「信長様っ、お誕生日おめでとうございます!今朝お目覚めになったら一番にお伝えしようと思ってたのに、私ったら遅くなってしまって…ごめんなさい」
ーちゅっ…
「ひゃんっ……」
慌てて頭を下げようとした私の顎を、信長様の骨張った指が掬い上げ、額にちゅっと口付けられた。
「先程から貴様は謝ってばかりだな。笑え。俺の誕生日を祝ってくれるのだろう?ならば祝いの品に、俺は貴様の笑顔が欲しい」
「信長様……」