第21章 誕生日の朝に
「朝餉を食べたら、遠乗りにでも行くか?午後の謁見までの僅かな時間だが、俺の時間を貴様にやろう。存分に『独り占め』するがよい」
「ふふ…ありがとうございます。でも、遠乗りなんて大丈夫ですか?秀吉さんに叱られるんじゃ…」
「秀吉も今日ぐらいは叱言を言わぬだろう。俺の誕生日だぞ?それとも、遠乗りは止めにして、褥で俺を独り占めするか?」
信長はニヤリと不敵に笑うと、指先を朱里の唇の上にするりと滑らせる。
それだけのことで、背をゾクリと快感が駆け巡り、続きを期待して身を震わせてしまう自分が恥ずかしい。
「んっ…やっ…ダメっ、信長さまっ…」
「ふっ…本当に嫌か?そんな物欲しそうな顔で言われてもな…説得力に欠けるぞ?」
「っ…嘘っ…そんな顔してないです…んっ…やぁ…」
ふにふにと指先で押されて半開きになった唇に、つぷっ、と指先が埋まる。
信長様の指を咥える形になってしまい、恥ずかしくて顔がかあっと熱を持ったのを自覚する。
そんな初心な反応を見せる朱里に、信長もグラグラと心を揺さぶられていた。
(俺を独り占めしたいなどと…全く…愛らしいにも程がある。誕生日だからといって格別思うところもなかったが、朱里が隣にいるだけで、これほどに心持ちが変わってくるとはな)
「朱里…愛してる。これからも俺の隣で笑っていろ。片時も傍を離れることは許さん」
「っ…はい。ずっとお傍にいます。来年も再来年も…そのまた先もずっと…貴方の隣で貴方の生まれた日をお祝いさせて下さいね。
愛しています、信長様」
どちらからともなく重ねられた唇は、深く、それでいて優しく、互いを思いやるように何度も愛を確かめ合う。
射し込む朝の光で室内が次第に明るくなっていくのを感じながら、二人だけの甘い時間に酔いしれていった。