第21章 誕生日の朝に
「あっ…信長様、起きておられたのですね。おはようございます!」
信長が起き上がっていたことに驚いた素振りを見せながらも、朱里はニッコリと晴れやかな笑顔を見せる。
信長のモヤモヤと晴れない気持ちに全く気付いていないかのような、屈託のない笑顔だった。
「………貴様、今までどこに行っていた?」
「えっ?あっ…」
朱里の返事を待たずに、その腕を強引に掴み、胸元に引き寄せる。
腕の中に閉じ込めて、有無を言わさぬように黙ってじっと見つめる。
「っ…あの、信長様…どうなさったのですか?」
訳が分からないといった顔で、腕の中から見上げてくる、その純粋そのものの姿が可愛らしくもあり、腹立たしくもあり……
「……勝手にいなくなりおって…」
「っ…えっ…あの、どうしたんですか?信長様、何か怒って…ます?」
「貴様は俺のものだという自覚が足りんようだ。ふらふらといなくなりおって…これは仕置きが必要だな」
「えっ、ええっ…何言って…ッンッ、んんっ…」
戸惑った様子の朱里の唇を強引に塞ぎ、言いかけた言葉ごと荒々しく貪る。
噛み付くような荒っぽい口付けで、苛立ちをぶつけるように強引に奪う。
「んっ…はぁ…んっ、やぁ…」
突然の口付けに戸惑っていた朱里の顔が、次第に蕩けた女の顔になり、身体からも力が抜けて、くったりと信長に身を委ねてくる。
口付けの合間に、口の端から艶めかしい吐息が漏れて、信長の耳を心地良く擽る。
思うままに散々貪って信長がようやく唇を離す頃には、腕の中の朱里は、はぁはぁ…と荒く息を吐きながら信長の胸元にぐったりと収まっていた。
「っ…はぁ…急にどうして…」
目元を潤ませて見上げてくる朱里に、ひどく欲を煽られる。
激しい口付けで、我知らず身体が昂ってしまったようで、今すぐ朱里を抱きたくて堪らなくなっていた。
こんな風に心が乱されるとは……
「……貴様が悪い」
「ええっ…な、何のことですか??私、何かしましたか?」
「………………」
不機嫌そうな顔を隠そうともしない信長に、朱里は戸惑い、腕の中で落ち着かなく身を捩る。
「何か怒っていらっしゃるのなら、言って下さい!私、何かお気に障るようなこと、してしまいましたか?」
(朝からこんなに不機嫌だなんて、どうなさったんだろう。今朝は気持ち良く目覚めていただきたかったのに…だって今日は……)