第21章 誕生日の朝に
障子越しに射し込む朝の光に目蓋を擽られ、信長は深い眠りの奥から意識を浮上させる。
(ん…もう朝か…)
元々は眠りの浅い方であったが、近頃は寝つきも良く、深く眠れる日も増えていた。
それというのも、隣で共に眠る愛おしい存在ができたからで……
「………あやつ、どこへ行った?」
昨夜、存分に愛を交わし、共に眠りについたはずの朱里がいない。
柔らかく温かなその身体を腕に抱き、穏やかな眠りについたそのままに目覚めるはずであったのに……いないとは、どういうことだ。
「俺に黙っていなくなるなど……許せん」
憮然とした表情で起き上がり、褥の上に胡座を掻いた信長は物憂げに髪をかき上げ、はぁ…っと溜め息を吐く。
朱里が自分より先に寝所を出ることなど、いまだかつてなかった。
朱里と褥を共にするようになって以前より寝付きが良くなったとはいえ、大抵は朝日が昇る前には目覚めていることが多く、常ならば先に起きて愛らしい朱里の寝顔を秘かに堪能しているところなのである。
それが、今朝は一体どうしたことだろうか。
柄にもなく一人で目覚める淋しさを感じている自分に、信長は戸惑っていた。
しんっと静まり返った寝所の空気が、白々しく落ち着かない。
障子越しの朝の光は、清々しく眩しいばかりだというのに、信長の心はまるで正反対に晴れなかった。
(このように頼りない心地になるなど初めてだ。子供でもあるまいに…情けない)
目覚めたばかりの朱里を抱き締めて、起き抜けのトロンと惚けた顔に口付けて、互いに愛を交わし合って……そんな朝が当たり前のように来るものと思っていた。
(どんなに清々しい朝も、朱里が隣にいなければ意味がない。俺にとって、今やあやつの存在がそれほどに大きなものになっているということか……)
言い様のない焦燥感に襲われた信長が、朱里の温もりの消えた褥にそっと触れたその時、微かな衣擦れの音とともに寝所の襖がそおっと開かれた。