第20章 お返しは貴方の愛で
「どうした?」
「や、あのぅ…私のお膳はどこに……?」
恐る恐る尋ねると……信長様はニッと悪戯っぽく口角を上げて笑い、大皿の料理を次々と広間に運び入れていた政宗に目配せした。
「今、持って来てやる。しばし待て」
「は、はい…」
(よかった、悪戯じゃなかったんだ…)
それでもそわそわと落ち着かないでいると、政宗がお膳を手に戻ってきた。
「朱里、待たせたな。今日の膳は特別だぞ」
目の前に置かれた膳の中身は、確かに特別で、私の好きな料理ばかりだった。
「うわぁ…美味しそう!私の好きなものばかり…ほんと特別だね!ありがとう、政宗っ!」
「どういたしまして…って言いたいところだが、礼なら信長様に言えよ」
「えっ…信長様に?」
「お前のための料理、作ったのは…信長様だ」
「へ?……え?ええっ…嘘っ…信長様が?これを??」
信長様が料理をなさるなんて……
時折、厨で私が料理をするのを見られたり、お菓子作りを少し手伝って下さったりはしていたけど、信長様が自ら料理をなさるなんて…しかも私のために…?
驚きとともに何とも言えない嬉しさが込み上げてきて、胸の奥がぎゅうっと締め付けられる。
「っ…信長様っ…ありがとうございます!」
「ん…冷めぬうちに食え」
「はいっ!」
早速、箸を取って煮物の皿から里芋に手をつける。
(見た目もトロリとした照りがあって美味しそう…ん、柔らかいし、よく味が染みてて…本当に美味しいっ!あっ、こっちのこれは、たけのこご飯がおむすびになってる!上に桜の花びらの塩漬けが乗せてあるのが春らしくて可愛い!これを全部、信長様が…?)
「すごく美味しいです。あの、これ、全部、信長様が作って下さったのですか?こんなに色々…大変だったんじゃ…」
「政宗に教わったからな、大したことではない。しかし、初めて知ることも多かった。料理とは、なかなかに奥深いものだな。貴様のためにやったことだが、俺自身も楽しめたぞ」
「ふふ…信長様の手料理がいただけるとは思ってもみませんでした。驚きましたけど、嬉しいです」
ふわりと春の花が綻ぶような朱里の笑顔を見て、信長もまた自然と頬が緩む。
自分の作った料理を嬉しそうに口に運ぶ朱里を見ながら、信長は満ち足りた思いで盃の酒を干す。