第20章 お返しは貴方の愛で
(あれ…?怒ってない…?というか、何で私の方を見てらっしゃるの?)
気がつけば、広間に集まった家臣達も信長様ではなく私の方を見ている。
「えっ…あの、信長様?」
「朱里、今宵は先日の『ばれんたいん』の返礼の宴だ。貴様がくれた菓子の贈り物への礼ゆえ、今宵の宴は貴様をもてなすための宴だ。存分に愉しむがよい」
「ええっ…私をもてなす、ってそんな…」
信長様の思わぬ言葉に戸惑い、周りを見回すと、秀吉さんら武将達も家臣の皆も、ニッコリと微笑みながら私を見てくれていた。
「朱里、いつも城の皆を気に掛けてくれてありがとうな。今日は俺達にお前の世話を焼かせてくれ。いっぱい甘えてくれていいからな」
「そんな…お礼なんてよかったのに…」
ささやかな菓子の礼に豪華な宴を開いてくれるなんて、何だか申し訳なかった。
「遠慮しないで楽しんだらいいんじゃない?……朱里、いつもありがと」
「家康っ…」
「朱里様、いつもありがとうございます!今宵は私達にご奉仕させて下さいね!」
「今宵はお前の望みを何でも叶えてやろう。何でもいいぞ…人には言えぬ望みでも、な…」
ニヤリと意味深な笑みを浮かべる光秀さんに、何故だか妙に焦ってしまう。
「やだ、光秀さんっ、人に言えないような望みなんてないですよ!」
「くくっ…どうだかな」
「おい、光秀!お前はまた…朱里を揶揄うんじゃない!」
「貴様ら、好き勝手に喋りすぎだぞ。いつまで経っても始められんではないか」
「そうだぞ、せっかくの飯が冷めちまうだろ?ほら、朱里、早く箸を取れよ」
「えっ、あ、うん…あ、あの政宗?えーっと…」
『早く箸を取れ』って言われても…と、キョロキョロと周りを見回す。
というのも、皆の前には既に料理の膳が用意されていて、いつでも食べられる状態だというのに、私の前には…何もないのだ。
(えー何で??これって何かの謎解き?光秀さんの悪戯??まさか皆には見えているけど、私には見えない…的なやつ?どうしょう…言い難いっ…)
皆があまりに何事もないような顔で私を見ているので、逆に言い出し難くて困ってしまう。
「の、信長様…あのぅ…」
困った私は、隣の信長様に助けを求めた。