第20章 お返しは貴方の愛で
「物の贈り物が思い付かないのなら、宴でも開きますか?あいつの好きな料理、俺がいっぱい作ってやりますよ」
「宴か……」
朱里は皆でワイワイと賑やかに食事をすることが好きだ。
安土城では、何かというと宴が開かれるが、朱里はいつも楽しそうに皆に囲まれて宴を楽しんでいる。
「それは良い案だが、朱里への返礼としては些か普通ではないか?宴なら普段から嫌というほどしているだろう?」
光秀が、皮肉ったように口の端を上げて言うと、皆も成程と思ったのか、揃って押し黙ってしまう。
「ま、まぁ、普通かもしれないが、朱里の好物を用意して皆でもてなすってのはいいと思うぞ、俺は。あいつは普段、皆の世話を焼いてばかりで、自分のことは二の次だからな。俺も、もっと思いっきり甘やかしてやりたい」
世話焼きの秀吉がしみじみ言うのを、皆もまた同じ意見なのか、頷きながら聞いている。
「では、朱里のために宴を開こう。とびきり盛大にな。それと…政宗、俺に料理を教えろ」
「…………は?」
「朱里の好物を俺が作る。『織田信長』が手ずから作った料理を妻に振る舞う。これならば、『普通』ではないだろう?」
ニヤリと悪戯っぽく口の端を上げる信長に、皆、驚いて開いた口が塞がらない。
「なっ…御館様が料理を!?そのような畏れ多い…いや、それよりもお怪我などなされては一大事…いけません!料理なんて!」
早速に叱言を言う秀吉を、信長は冷ややかな目で見る。
「阿呆がっ…怪我などするかっ!刃の扱いには慣れておる」
「いやいや…刃の扱いって…刀と包丁は違います!包丁なんて握られたことすら、ございませんでしょう?危のうございます!」
「おい、秀吉。お前、それはさすがに心配し過ぎじゃねぇか?子供じゃねぇんだし、初めてでも包丁ぐらいすぐ使えるようになるぞ?信長様、器用だしな」
「御館様が器用に何でもこなされるのは分かってる!だが、万が一のことがあってはならん。大事な御身が傷付くようなことは…」
「どれだけ心配性なんですか、秀吉さん。信長様を子供扱いって…笑えるんですけど」
「まるで母親だな、秀吉。『可愛い子には旅をさせよ』という言葉があるだろう?お前もそろそろ子離れしなくてはな」
「光秀、貴様……俺を勝手に子供にするな」
武将達の好き放題の言い様を黙って聞いていた信長は不機嫌に唸るような声で言う。