第20章 お返しは貴方の愛で
秀吉が、信長のために一生懸命に菓子を作る朱里の健気な姿を思い浮かべて、ほっこりしていると……
「朱里に先日の『ばれんたいん』の返礼がしたい。何が良いか、貴様らも知恵を貸せ」
信長の言葉を聞いた武将達は顔を見合わせる。
信長の緊急の呼び出しに何事かと来てみれば、朱里への返礼を考えろとは……
(信長様も随分と変わられた…良い意味で)
武将達は皆、信長の言葉に拍子抜けしたと同時に、ふわりと胸の内に暖かいものが広がっていくような気持ちになった。
「朱里への返礼ですか、それはいいですね。あいつは見返りは求めない欲のない女子ですけど、御館様からの贈り物なら、きっと喜んでくれますよ」
「そうだな。御館様からの贈り物なら、どんなものでも喜ぶでしょうが…そうなると逆に選ぶのが難しいですな」
「ああ、信長様、普段からあの子に色々買ってあげてますしね。着物やら装飾品やら…それこそ山のように」
「………そんなには、買ってない」
家康の揶揄い混じりの言い様に、信長は憮然とした表情になる。
たまに城下に一緒に行った際に、朱里に色々と買ってやろうとすると、『そんなに要らない。勿体ない』と断られるのだ。
(だから京や堺に行った折に、少々見繕って買い求めているぐらいのことだ。それを山のよう、などと大袈裟な…)
信長が贈った豪華な品々を見て、嬉しそうに、けれど少し困ったように微笑む朱里の顔が思い浮かぶ。
そうは言っても朱里も女子だから、美しいもの、可愛いものには勿論興味があって、化粧や装いなどにも気を配っているようだ。
だが、朱里はそれほど欲がないのか、贅沢は好まない。
信長が命じれば手に入らぬものなどないというのに、自分の身の丈はここまでとでも決めているのか、身の丈以上のものを望もうとはしないのだ。
(あやつを真に喜ばせるものは何であろうか…高価なものも希少なものも、あやつの心を動かせるとは限らない。俺はあやつが喜ぶ顔が見たいのだ)