第19章 情炎〜戦国バレンタイン
夜明け前のまだ薄暗い寝所で、冷んやりとした寒さを感じて目が覚めた。
(ん…まだ暗いな…)
寝惚けた頭でぼんやりしていると、何やら隣からガサガサという音が聞こえて………
「信長様…何して…?」
「ん?もう起きたのか?まだ寝てていいぞ」
「えっ、でもあのっ、それ…」
信長は褥の上に起き上がっていて、手には小さな箱があり、今まさに箱を包んでいた色和紙を開こうとしていたところだった。
それは昨日、朱里が信長に渡そうとした菓子の箱だった。
「これは俺のなのだろう?腹が減った、食わせろ」
「で、でも…昨日は要らないって…」
「気が変わった」
素っ気なく言うと、あっという間に包装を解き、箱の蓋に手を掛ける。
「あっ……」
「………………」
(あれ?何だか思っていた反応と違う…何か変…?)
箱の中をじっと見つめたまま言葉を発しない信長の様子が気になって、横から中をそおっと覗いてみると……
「ああっ……」
箱の中に丁寧に入れたはずの金平糖クッキーは、無残にも割れていた。
粉々というほどではないが、半分に割れたり、端が欠けたり、と綺麗だった焼き上がりの状態とは程遠いものになっている。
「嘘ぉ…何でこんな…」
箱に入れて包装してからも、持ち運びには細心の注意を払っていたはずなのに割れているなんて……
「………すまん、俺のせいか?」
「えっ…?」
「昨夜…落としただろう?それを…」
「えっ……あっ!」
そういえば…昨夜、信長様に褥に押し倒された時に…持っていた箱が手から落ちて……
「そんなぁ…」
一気に気が抜けてしまったように、口から深い溜め息が溢れる。
強引ではあったけれど、信長様に愛された昨夜は身も心も満たされて改めて幸せを実感できたというのに…まさかこんなことになっていようとは……
ーサクッ…ポリポリッ…
「えっ…?やっ、やだ…信長様、食べないで下さいっ!」
「何故だ?俺が貰ったものを食べて何が悪い?」
「だ、だって、そんな見栄えの悪いものを信長様に召し上がっていただくわけには…」
「見栄えなど気にはせん。ん、美味い。このザクザクした食感と色合いは…これは何だ?」