第19章 情炎〜戦国バレンタイン
「それは、金平糖です。クッキーの生地に金平糖を砕いたものをのせて焼いたのです。皆と同じものではなく、信長様には私が作ったものを召し上がっていただきたくて…信長様は私にとって特別な御方ですから…。でも、割れてしまうなんて…ごめんなさい」
「なぜ謝る?形が崩れていようが、そんなことは重要ではない。貴様が俺のために作ったのだから、それだけで充分だ。俺は貴様の気持ちを貰ったのだ。それは見た目や形で変わるものではない。
……まぁ、そうは言っても、これはこれで美味いぞ?」
ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべてから、ぱくっとクッキーを頬張る。
美味しそうに食べてくれる様子に、ふわりと胸の内が暖かくなる。
「ありがとうございます、信長様」
「ん…貴様も食え」
「えっ?」
さらりとそう言うと、信長はクッキーを一つ取って唇に挟み、朱里の頭を引き寄せた。
一枚のクッキーを間に挟み吐息が絡まる距離で見つめ合う。
あまりにも近過ぎる距離に心の臓が忙しなく騒ぎ、視線が逸らせなくなった。
促されるままに開いた唇にそっと差し込まれたクッキーはすぐに口内でほろりと溶け始め、気が付けば夢中で唇を寄せていた。
「っ…うっ、んっ…」
二人の間でパリッとクッキーが割れた瞬間、信長の唇が深く重なって甘く蕩ける口付けの時が訪れる。
何度唇を重ねても、初めて味わうようで全く飽きない。
菓子のように甘く、一度口にすれば際限なく欲しくなる。
口内でほろほろと溶けてしまった菓子の甘さを惜しむように舌を絡ませ、朱里の甘さを堪能する。
朝陽が射し、薄闇が明け染め始める中、信長は、自分だけに用意された、自分だけの極上の甘菓子を喰らい尽くさんと、再び褥へと身を沈めていった。