第19章 情炎〜戦国バレンタイン
(どうしよう…信長様、すごく怒ってたみたい。私がお出迎えしなかったから…?信長様に内緒で勝手なことしてたから…?)
信長の、苛立ちを含んだ冷たい視線を思い出して、グッと胸が締め付けられるように痛む。
広間の空気も一気に寒々しいものになってしまい、家臣達もこの場に残っていいものかどうか、決めかねているようだった。
(あぁ…皆に気を遣わせちゃってる。こんなつもりじゃなかったのに…)
昼間のうちに城の者たちには菓子を渡し、夜は視察から戻った信長様に手作りの菓子を渡して、二人だけでゆっくり過ごそうと思っていた。
信長様の驚く顔、喜ぶ顔が見たいと、朝から楽しみにしていたというのに…
大切な人と過ごす日
愛する人に想いを伝える『愛の日』
大好きな信長様に改めて想いを伝えよう…そう思っていたのに…
「朱里…大丈夫か?」
「っ…秀吉さん…あっ…あの、お仕事、お疲れ様でした。ごめんなさい、お迎えもしないで私、こんな勝手なことをして…」
「いやいや、気にするな、そんなこと。それより…平気か?」
「う、うん…大丈夫。突然のことで、ちょっとびっくりしただけで。あ、これ、まだ途中だから…秀吉さんも、いつもありがとう。これ、少しだけど受け取ってね?」
「あ、ああ…ありがとうな。朱里、あのさ、御館様は…」
「ごめん、秀吉さん…さぁ、皆さん、並んで下さいね!どうぞ!いつもありがとうございます!」
硬く強張っていた顔に笑顔を貼り付けるようにして家臣達に菓子を配るのを再開した朱里に、秀吉はそれ以上言葉をかけられず、再び賑やかさを取り戻し始めた広間の中で、所在なげに立ち尽くすしかなかった。