第19章 情炎〜戦国バレンタイン
壺の中から、バラバラっと金平糖を小皿の上に取り出す。
桃色や黄色、空色といった可愛らしい色合いの小さな宝石のような砂糖菓子。
信長様が格別お好きな金平糖は、主(あるじ)の食べ過ぎを心配した秀吉さんが、一日に食べる量を厳格に制限していて、残りの金平糖を信長様に見つからないように秘かに隠しているのだった。
私はこの金平糖をクッキー生地に入れた『金平糖クッキー』なるものを作ろうと思っていた。
小皿に乗せた金平糖を色ごとに分け、すり鉢に入れて細かく砕く。
「っ…硬ぁ…わ、割れない……」
砕くといっても形が残るぐらいの大きさでよかったのだが、これが結構な硬さで、予想外に骨が折れた。
ゴリゴリとすり鉢を擦りながら、少しずつ粒が砕けていく様を見る。
(ふふ…金平糖をこんな風に使ったら、信長様、驚くかな?)
材料を全て混ぜ合わせたクッキー生地は、棒状に伸ばしてから切っていく。
丸い形の生地の表面に、色とりどりの砕いた金平糖を押しつけるようにして乗せてから焼いていく。
焼き上がったものを試しに食べてみると、生地のサクサク感と金平糖のザクザクした食感が楽しい。
金平糖の甘さを考慮して砂糖を少なめにしたので、甘過ぎることもなく、何枚でも食べられそうな軽い感じに仕上がっていた。
「んーっ、美味しいっ!これなら信長様も気に入って下さるかなぁ。そうだ、包みも色和紙を使ってちょっと凝ったものにしよう」
安土に来るまで、見たことも作ったこともなかった異国の菓子だが、信長様が好んで召し上がるものということもあって、菓子作りは私の趣味になりつつあった。
異国の高い技術と比べて日ノ本にあるものは拙いものも多く、なかなか同じようには作れない。
最初の頃は失敗ばかりで、信長様が用意して下さる貴重な材料を無駄にしてしまい、落ち込むことも多かった。
それでも………
信長様に美味しいものを食べてもらいたい。
信長様の喜ぶ顔が見たい。
その思いだけで私は、未知のものにも臆することなく挑戦できるのだった。